喜ぶ孫悟空の目を見て、玄奘はハッとした。
「あなた、まだ目が赤いですね……冷やした方が……」
「ああ、これは元から赤いんです。元から、と言うかその昔
「焼かれた……って」
玄奘は困惑した。
孫悟空は一体何をしたのだろう。
「
「ええっ……!」
「それで俺様は不死身になったんですけど天帝……ええーと、玉皇大帝を怒らせちゃって……捕まって太上老君の八卦炉にぶち込まれたんですよ。まあ、
「大丈夫……?」
瞳の色が変わるほどの熱に焼かれたと言うのに、平然と笑って言う孫悟空に玄奘は胸を痛めた。
「こんな乱暴者、やっぱ嫌……ですよね」
スケールの大きさに玄奘がポカンとしていると、誤解したのか、孫悟空が顔を
「いえ、そんなことないです。兜率天とか太上老君とか、書物でしか知らないところの話を聞くのは大変興味深いです」
「そうですか?」
「でも……やはり乱暴なことはいけませんね。いくらあなたが不死身とはいえ、八卦炉で焼かれて苦しかったことでしょう。その目の色が変わるほどですもの。自分の身を大切にするためにも、今後乱暴なことはしないでくださいね」
「お、お、おお……」
「あなたは私の弟子なんですから、どうか身体をたいせつにして、私を悲しませないでください」
手を取られ、間近で悲しげに見つめられ、孫悟空は戸惑った。
こんな反応、予想もしていなかった。
どこかくすぐったくて、孫悟空は鼻の頭を掻いた。
「では私も秘密を一つ……」
玄奘はこほんと咳払いをしてイタズラっぽい表情をした。
「秘密?」
「こう見えても私、結構ヤンチャしてきたんですよ」
「え?」
「まあ、あなたほどではないですけど……寺院から脱走は
「お師匠様が、寺から脱走?」
予想外の言葉に想像できなくて、孫悟空は思わず笑ってしまった。
「はい。どうしても見たいものがありまして……」
「見たいもの?」
「私、赤子の時に寺に預けられたんで、親を知らないんです。だから町に行けば手がかりがあるかも、と」
「……」
「小僧の考えることですから、手がかりなんて何も手に入らないし、
「それで、お師匠様は……ご両親とは……」
孫悟空の質問に玄奘は困ったような笑顔で首を振った。
「天竺までのこの旅のどこかで会えたらいいなぁ……なんて」
「よし、俺、お師匠様のご両親探すの手伝うぜ!」
涙目になった孫悟空が目をこすりながら言う。
「ありがとうございます。まあこのご時世ですから……あきらめてもいるんですけどね」
玄奘がそう言うと、孫悟空はその肩をつかみ前後にゆさゆさと揺らした。
「諦めたらダメだぜお師匠様!俺様は絶対さがしてみせますから!ね、だから諦めないでください!!」
「は、はいぃぃいいい……」
「俺様、山で親とはぐれた小猿を親猿に届けたこと何度かあるんでそういうの得意ですから、大丈夫ですよ!」
玄奘の返事にパッと手を離した孫悟空は決意をしたように拳を握って言った。
そんな孫悟空の頼もしい言葉に、玄奘は嬉しいと微笑んだのだった。