「よし、とにかくまずは俺様の武器を取りに行かねえと」
「武器?」
玄奘が聞き返すと、孫悟空はうなずいた。
「
「それはどちらに?」
「俺様の故郷、
釈迦如来に閉じ込められた時に武具一式を取り上げられ、それならばと花果山の猿たちに預けてもらうよう頼んだのだ。
「流石の俺でも丸腰で妖怪どもと戦うなんてことはできないんでね。申し訳ないですが寄り道させてください」
「わかりました。では後ほど合流、ということですね」
ニコニコとして言う玄奘の言葉に、孫悟空はきょとんとした。
「何を言っているんです、お師匠さまを一人にしておけませんよ。こい、
孫悟空が指笛で呼ぶと、ふわふわとした雲がやってきて、孫悟空は宙返りをしてそれに乗った。
「お師匠様、お手を」
「手?」
孫悟空から差し出された手に玄奘は反射的に自分の手を乗せた。
孫悟空はそれを引いて、玄奘を自分の前に座らせる。
その乗り心地は、綿の上に座っているような、暖かくてふわふわした感じだ。
落ちないのが不思議なほど柔らかい。
「それじゃあ行きますよ」
「え?え?」
どういう仕組みかをかんがえている間に、觔斗雲はふわふわと高度をあげていく。
遠くなっていく山の風景に、玄奘は驚きキョロキョロするばかり。
「それじゃあしっかりつかまっていてくださいね!」
(つかまるってどこに?!)
と玄奘が言うか言わないか。
「行くぞ、觔斗雲!久々に飛ばすぜ!」
「ヒッ……!!!!!!」
ものすごい速さで觔斗雲は空を駆け抜けていく。
「あわわわわわわ……」
「お師匠様口閉じて!」
風圧で目は閉じられず、空気が入ってほおが膨らみ、口も閉じられない。
「お師匠様、すごい顔になっていますよ……ほら、閉じてください」
風に膨らむそれは思わず笑いそうになってしまう顔のはずなのに、あまりにも酷くて孫悟空は申し訳なく思った。
「すみません、目も口も閉じるように言うべきでしたね……」
石猿の孫悟空と、ただの人間の玄奘では頑丈さが違う。
それを失念していたと、孫悟空が玄奘の顔の前に身をかがめて手をかざした。
正面からぶつかってくる風が遮られ、玄奘はようやく口を閉じることができた。
「お師匠様、すこし前かがみになるといいかもです」
(わ、わかりました)
声を出せないので玄奘はこくこくと頷いて同意を示した。
言われた通りにすると、少しは周りの風景を楽しむ余裕が出てきそう……と思ったのだが。
流れるように過ぎていく景色に、何があるのかさっぱり分からず、玄奘は目を守るために目を閉じたのだった。