玄奘が瞬きを数回しているうちに、二人を乗せた
花果山は孫悟空の生まれ故郷で、海の近くにある山。
岩肌がところどころのぞくそこに、木々や花が生い茂る火山である。
そして火山の熱に温められた温泉があちこちにある楽園のような場所だ。
「あー久々に思いきり飛べて楽しかった!」
孫悟空は久しぶりの故郷を懐かしむように大きく息を吸った。
「う、うぇっぷ……」
「大丈夫ですか、お師匠さま」
「まだちょっと目が回ります……」
觔斗雲のあまりの速さに、玄奘はヨレヨレになっている。
孫悟空の手を借りてようやく雲から降りた玄奘はその場にへたり込んでしまった。
「おやおや、お連れさんは大丈夫かい?」
「うーん、無理かな。お師匠様をどこかで少し休ませねえと……って誰だ!」
突然背後から話しかけられ、孫悟空は警戒し身構えて振り返った。
──のだが。
「げ、なんであんたがここに……」
「やあ、
孫悟空より頭二つ分も背の高いその人は、絵に描くのが難しいくらいの整った顔立ちをしている。
凛々しい眉毛の下には大きな深い藍色の瞳。
額にはもうひとつの目があり、それが彼を人ではないと知らしめる
そして月の光の煌めかせる水面のような、その豊かな銀の髪を結い上げ、荘厳な甲冑を身に纏っている。
彼の足元にはふさふさとした毛並みの赤茶の犬が尻尾を振りながらじゃれついている。
知り合いなのか、孫悟空はムッとしてその美青年につめよつた。
「俺様をちゃん付けて呼ぶなよ。あん時は三百八十四歳だったけど、もう五百年経ったからな。俺様はもうすぐ千に行くぞ」
「そんなこと言っても元々オレの方が年上なんだから、石猿ちゃんは永遠に石猿ちゃんだろ」
「……はぁ……」
片目を瞑って言う男に話をするのもバカらしくなり、孫悟空はため息をついて会話を切り上げた。
「悟空、そちらの方はどなたです?」
「ああ、
「玉皇大帝……」
「えーと、こいつは天帝の妹の息子なんです」
「初めましてお坊様。石猿ちゃんのいう通り、オレは顕聖二郎真君といいます。この犬は
顕聖二郎真君が空を指さすと、応じるように空を旋回する鷹がピャァアと一声鳴いた。
「私は……」
「自己紹介なんてしなくて良いですよお師匠様。こんな奴、相手にしなくて良いんです」
孫悟空は、玄奘を顕聖二郎真君から隠すように、背を向け両手を広げて立って言う。
そんな孫悟空を
「そう言うわけにはいきませんよ、悟空。挨拶は大切なことです」
「ただの人間が石猿ちゃんを呼び捨て?それに、お師匠様だって……?」
驚いたような顕聖二郎真君の呟きが聞こえたが、気にせず玄奘は立ち上がりにこやかに挨拶をした。
「初めまして、顕聖二郎真君。私は玄奘と申します。唐の皇帝太宗の命で、天竺まで旅をしています」
そこまで言って頭を下げると、玄奘はくらりとめまいを感じてよろめいた。