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第42話 孫悟空VS顕聖二郎真君

 とにかく、今の顕聖二郎真君は孫悟空と戦いたくてたまらなかった。


 孫悟空を追い詰めて追い詰めて、降参するまで徹底的に打ち負かしたい、と。


「どう?」


 顕聖二郎真君は興奮していく気持ちをおさえきれず少し上擦った声で言う。


(もしうっかりまた封印しちゃっても……仕方ないよね)


「おお、いいな!俺様、お前と打ち合うの実は楽しかったんだよな」


 そんな顕聖二郎真君の様子に気づかない孫悟空は、ウキウキと浮かれながら如意金箍棒にょいきんこぼうを振り回しながら言う。


「あ、でも……なあ二郎真君、たかと……哮天犬こうてんけんはつかわないよな?」


「もちろん使うよ。当たり前でしょ」


「えー……」


 何を言っているの、と顕聖二郎真君が呆れ顔で言うと、孫悟空はものすごく渋い顔をした。


「大丈夫、今度は五百年前みたいにお尻を噛まないようにはしつけといたから」


 顕聖二郎真君の言葉に反応したのか、彼の言葉とは裏腹に、牙を剥き出し唸る哮天犬をみて、孫悟空は思わず尻を押さえた。


「まさか五百年も封印されて体が鈍ってるから使わないで、なんて言わないよね?」


「あ、当たり前だろ!」


「じゃあ問題ないね。大切なお師匠様を妖怪たちから護れるか、オレたちが試してあげるよ」


 顕聖二郎真君の肩に神鷹が止まり、足元の哮天犬も臨戦態勢なのかすぐ飛びかかれるように身を低く構え、牙を剥き出して唸る。


「じゃあ、行くよ」


「おうっ!」


 その声と共に神鷹は放たれ上昇し、哮天犬は駆け出す。


 そして顕聖二郎真君は、先端が三つに分かれた武器、三尖両刃刀を構えた。


 風を切る音がして、玄奘が気がついたときにはもう二人の姿は目の前から消えていた。


 玄奘は辺りを見まわしようやく二人が上空で打ち合っているのに気づいた。


 槍のように長く、刃が三つもあるその武器を振り回す顕聖二郎真君に、孫悟空は防戦一方だった。


「ほらほら、やっぱり鈍っているんじゃないの〜?」


 孫悟空は、觔斗雲の上で大きく宙返りをして顕聖二郎真君から間合いをとろうとした。


 だが孫悟空が着地しようとした瞬間にあっという間に神鷹の鉤爪に囚われ、さらに上空へと連れ去られる。


 驚いたことに神鷹は孫悟空の3倍ほどの大きさに変化していた。


「コイツ、巨大化するなんて聞いてねえぞ!」


「この五百年、オレたちが何もせずただ君を待ってただけだと思う?」


 顕聖二郎真君はそう言いながら気持ちがどんどん昂っていくのを感じていた。


(ああ、楽しいなあ……やはり石猿ちゃんと打ち合いをするのは最高だ!)


「如意金箍棒!伸びろ!」


 孫悟空の命令で如意金箍棒はぐんと長くなり、孫悟空はそれを大地に思い切り突き立てた。


「フンっ!」


 そして如意金箍棒を掴み、力任せに神鷹の鉤爪から逃れた。


 神鷹はバランスを崩し、そのまま落下。


 打ちどころが悪かったのか目を回し、元の大きさに戻った。  


「はーっ、はーっ……」


 如意金箍棒を伝って地上に降りた孫悟空は爪が食い込んだせいで少し血が滲む脇腹を抑えながら肩で息をついている。


 五百年閉じ込められている間、孫悟空には鍛錬する間もあったはずなのだけれど、閉じ込められた怒りと悲しみでただ喚いていただけだから、体の感覚がいまいち戻らない。


「そんなんじゃ哮天犬に噛まれるよ〜!」


「わっ!」


 背後から素早く迫る哮天犬を孫悟空はギリギリで避ける。


 ガチン!と牙が触れあう音がして、孫悟空は背筋を震わせた。


 あの牙の音は五百年経っても忘れられない。


 一方で、玄奘は二人の戦闘をハラハラとしながら見ていた。


 と同時に違和感も覚えていた。


 顕聖二郎真君といえば、伝説では沈着冷静な美男子とも紹介される有名な神仙である。


 だが目の前の顕聖二郎真君はどうだろう。


 物語で聞いた人物像よりもだいぶ好戦的にも見られる。


「そんな人物だったでしょうか……」


 玄奘は密かに首を傾げた。



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