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第43話 顕聖二郎真君にまとわりつくもの

 顕聖二郎真君の攻撃は次第に激しさを増して行き、結局孫悟空は一撃も返せずにいる。


 整っているはずの顕聖二郎真君の顔は高揚に歪み、はたからみれば彼に何か異様なことがおきているのだとすぐわかるほど。


「顕聖二郎真君、あなたは一体……」


 玄奘は目を凝らして顕聖二郎真君を見てみた。


 馮雪だった頃、村にきた憑き物落としをする道士がやっていたことの見様見真似だが。


『目ではなく眉間の目でみるんだ。ここには第三の目があるんだよ』


 道士の言葉を思い出す。


 そのときはよくわからなかったが、僧となった今ならその感覚がわかる気がする。


 しばらくすると、玄奘の目に赤黒いモヤが顕聖二郎真君の体にまとわりついているのが見えた。


「っく……」


 だが強い頭痛がして、玄奘は慌てて視界を元に戻した。


 初めて見えたあれは一体なんなのだろう。


「ねえ玄奘ちゃん、やっぱ天竺はオレといこうよ。石猿ちゃんがこんなんじゃ護衛は無理だよ」


 その時、顕聖二郎真君が、孫悟空の如意金箍棒を軽々と躱しながら言った。


「ウルせぇぞ二郎真君!俺様が仰せつかったお役目なんだからな、お前なんかに譲るかよ!」


「はいはい、言い返すなら一撃でも返してみたら?はい、これでおしまい!」


 顕聖二郎真君は、突き出された如意金箍棒を軽々と避けて孫悟空の後ろに回り込んだ。


(捉えた、脳天!)


 そして、顕聖二郎真君はなんの躊躇いもなく三尖両刀刃を思い切り振り下ろす。


「うわっ!」


「悟空!」


 孫悟空の悲鳴に、玄奘は思わず二人の間に飛び出し両手を広げて孫悟空を庇うように立った。


「お師匠様!!」


「──っ玄奘ちゃん、なにを!」


 顕聖二郎真君が振り下ろした三尖両刃刀はすぐには止められない。


 赤黒いモヤが意思を持った煙のように、顕聖二郎真君の体から立ち昇った。


「な、なんだよ、あれ……!」


 孫悟空にも見えたらしいそのモヤは、顕聖二郎真君にまとわりつくように蠢いている。


「お師匠様危険です、俺様は大丈夫だから下がって!」


「いいえ、悟空は、私の弟子は私が……!」



 その様子を天眼通てんげんつうで見ていた観音菩薩は蒼白そうはくになった。


「九環の錫杖も持たずに何を考えているのです、金蟬子こんぜんしは!」


 九環の錫杖があれば観音菩薩が降りられるのに、慌てていたのか玄奘はそれを持たずに孫悟空と顕聖二郎真君の間に出てしまった。


 玄奘は九環の錫杖の機能を知らないから仕方のないことかもしれないが、いくらなんでも丸腰で飛び出すなんて。


 観音菩薩は恵岸行者を呼ぼうとあたりを見回した。


「恵岸……ああ、しまったっ!」


 恵岸行者は問題が起きたと言う河伯のところに行かせたことを思い出した観音菩薩は、仏らしからぬ舌打ちをした。


錦襴きんらんの袈裟で防げるか……どうか……玄奘よ、無事で……!」


 玄奘の元に行けず、天眼通を通してみることしかできない歯痒さに観音菩薩は爪を噛んだ。


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