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第60話 玉龍開き直る。孫悟空、哪吒と合流する

「いいもーん!ボクはカンドーされた身だもーん!もう父上は関係ないもーん」


 龍がそっぽを向きながら言うその言葉を聞いて、河伯はピンときた。


 最近子息しそくを勘当した龍神は一柱しかいない。


「勘当……ならばお前は西海龍王、敖閏殿の第三子、玉龍殿か。なるほど、お父上のご苦労はいかほどか」


 勘当事件があったのち、憔悴しょうすいしていた敖閏を思い出した河伯は目の前の玉龍を見てため息をついた。


 玉龍はムッとして上体を起こした。


「なんだよなんだよ!おじさんこそ何?なんで父上の名前を知ってるわけ?」


「お、おじさん……ん、んんっ!俺は捲簾大将をしていたからな。知らぬ龍神はいないのだ」


 咳払いをして河伯がいうと、玉龍は胡散臭そうに目を細めた。


「していたって、今は違うってことだよね?」


「ん、ま、まあな……」


(そこに気づくか〜……)


 鋭い指摘にギクリと顔をひきつらせた河伯は明後日の方へと視線を流した。


 もう河伯は捲簾大将ではなくなったが、龍神たちとの交流がないわけではない。


しかし、そんなことを玉龍が知る由もなく。


「じゃあもう天界とも関係ないなら、おじさんのこと食べてもいいよね!おじさんを食べたって父上にバレるわけないし!てことでいただきまーす!!」


「えっ?!ちょ、何でそう……待っ……!」


 大口を開けて迫ってくる玉龍をかわし、河伯は降妖宝杖を握り直した。


「龍と戦うのは久しぶりだな……よし玉龍よ、その甘ったれたしょうね、この俺が叩き直してやろう!」


「へへん、おじさんになんか負けないよ!やれるもんならやってみな!」


 河伯の言葉に玉龍が挑発するように咆哮した。




その頃、蛇盤山に向けて觔斗雲を走らせていた孫悟空は見慣れた一団に手を振っていた。


哪吒なたー!」


呼びかけると、そこから風火輪ふうかりんを駆って哪吒太子が飛んできた。


「こんなところで何やってんだよ悟空。お前五行山に封印されてたはずだろ」


「あー……まぁ色々あってさ」


 哪吒太子の指摘に孫悟空は頬をかいて事情を話した。


「……それで、お師匠様の馬を食った龍を追いかけてきたってわけ。それより哪吒こそなんでこんなところにいるんだよ」


「下界で龍が暴れてるから退治せよとの天帝命令」


「あーじゃあ敵は同じ龍かもなあ。まあ、久々にお前と一緒に戦えるのは嬉しいな」


「俺もだ。今度は敵じゃなくて共闘なのが楽しみだ」


 孫悟空が笑うと哪吒太子も笑う。


 その昔、孫悟空が天界で暴れた時に哪吒太子とは戦った事があり、面識がある。


 昨日の敵は今日の友という言葉があるように、一度剣戟けんげきを交えたことでお互い似たもの同士だと感じた両者は親近感を持っているのだ。


「哪吒兄様、その方は?」


「青鸞」


 手だけを翼に変化させて飛ぶ青鸞童子が哪吒太子に追いつき尋ねる。


 孫悟空は青鸞の青い翼を見て感心して頷いた。


「へえ、そいつ青鸞の子か。よろしくな、俺様は孫悟空」


「は、はじめまして!青鸞童子です。今は哪吒兄様のところでお世話になっています」


「龍相手に猛禽もうきんを連れてくるとは、お前の親父さんも考えたじゃないか」


「たまたまだよ。多分あいつはそこまで考えねえよ。青鸞は李天王一家に入って今日が初陣ういじんなんだ」


「へえ。それは楽しみだ。青鸞童子、龍が相手だったら猛禽のお前の方が有利だ。ガンガン攻めてけ、な!」


「はいっ!」


 孫悟空のアドバイスに、青鸞は戦意がたかぶったのか頬を紅潮させて頷いた。


 孫悟空たちと托塔李天王の一団は共に蛇盤山を目指して空を駆け抜けていった。


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