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第109話 化け物の名前と執念

 奥にあるその部屋は、一つの棚と机と椅子があるだけの簡素な場所で、孫悟空は棚のそばに立ち、玄奘と玉龍が席についた。


 そして猪八戒がお茶を用意したところで、ルハードが話し始めた。


「ワタシ追ってるバケモノ、名前、“マルティヤ・クヴァーラ”いいマス」


「マル……うん?」


 聞き慣れない化け物の名前に孫悟空と玉龍は首をかしげた。


 天界でも四海でも聞いたことがない名前だ。


「マルティヤ・クヴァーラ。人を喰うバケモノで、特にビジンの女の人コウブツ。人の皮かぶって紛れ込んで、獲物に近づいて喰らうデス」


「ひ、人の皮をかぶる?!」


 顔を青ざめさせ悲鳴を上げた玄奘に深刻な顔をして頷いて、ルハードは話を続ける。


「昔、ワタシの師匠ヤツに負けた。そして皮剥がれてイノチ奪われた。バケモノ、その後このウシゾー国来た。でもその時はマオさんとハッカイさんに追い払われた。デモいま、バケモノ、また獲物のところに来た」


「獲物……?」


「バケモノの獲物、ハッカイさんのオクさん」


「てことは、化け物って……!」


「そう、あんたたちもさっき会った、シャフリアルのことだ」


 猪八戒の言葉に玄奘たちは言葉を失った。


「マルティヤ・クヴァーラ、しつこい。狙ったエモノ、絶対逃がさない」


「卯ニ姐とオレがトドメをさせたらよかったんだが、追い払うのが精一杯でな……」


「マオさん、ワタシのこと庇ってケガした。それが元でイノチ落とした……」


 項垂れて言うルハードに猪八戒は首を振る。


『お前のせいじゃないって卯ニ姐も言ってただろ。終わったことだ。もう気にするな』


 ルハードの国の言葉で猪八戒は励ます。


 それから真剣な表情をして玄奘たちを見た。


「オレはこの機会を逃したくない」


「機会……?」


「バケモノ退治の機会だよ。今度こそ仕留める。卯ニ姐の仇、絶対に」


 玉龍の疑問に猪八戒が拳を握って言う。


「なあ、あんたたちも手伝ってくれよ。バケモノ退治」


「ええ、もちろん──……」


「ダメだ」


 孫悟空は二つ返事で了承しようとした玄奘を遮り、身を乗り出し玄奘の手を握る猪八戒の手をはずした。


「俺たちにはそんな暇はないし、お師匠様を危険な目に遭わせるわけにはいかない」


「悟空……?」


 孫悟空は険しい目で猪八戒を睨んでいる。


 一方で猪八戒は孫悟空に睨まれているが、大して気にしてもいないようで、孫悟空を見ている。


「で、でも倒さないと高様が危険な目に遭うのですよ!」


「ダメです。なんと言ってもダメです」


 猪八戒から目を逸らさずに、孫悟空は言葉だけを玄奘に返す。


「なんで?!スイランさんを見捨てるの?!そんなのハクジョーだよ、悟空!」


「ダメだ!」


「な、何だよぅ、怒鳴るなよぅ……」


 強い口調で言われた玉龍は涙目になって項垂れた。

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