「おい玉龍、嘘泣きだってわかってるからな」
孫悟空の指摘に玉龍は舌を出した。
「なんだよ、孫悟空の薄情者!いいよ、ボクとオシショーさんでなんとかするから。ね!」
「えっ、え?」
急に話を振られた玄奘は戸惑い、玉龍と孫悟空を交互に見た。
孫悟空はカッとなって語気を強める。
「ハクジョーだあ?お師匠様も玉龍も、黒風怪のことをもう忘れたのか?!俺があの時どんな思いをしたか、観音菩薩も……!」
「それは……!」
泣きそうな顔で言う孫悟空に、玉龍は言い返せなかった。
三人のやり取りを静観していた猪八戒はまあまあ、と宥めた。
「そんな暇はない、と言っていたが、あんたたちは先を急ぐ旅なのか?」
「それはまあ、そうですね……」
玄奘は猪八戒に旅の目的を話した。
「それなら尚更手伝ってもらわないといけないな」
それまで黙って聞いていた猪八戒は不敵に笑いそう言った。
「は?なんでだよ」
孫悟空が声を荒らげる。
「オレも観音菩薩から西方取経の供をせよと命じられてるんでね」
「ええ?!」
玄奘たちは驚き声を上げた。
「は?待てよ、ウソだろ?手伝って欲しいからってそんな……」
「オレはその昔、崑崙で天の川を管理する役目をもつ
「なんかオジさんが語り始めちゃったけど……」
玉龍が胡散臭そうに言うと、猪八戒が「まあ座れよ」と仕草で促した。
玉龍は座り、孫悟空は棚にもたれかかる。
「お前たち、崑崙にいたなら蟠桃会、知ってるだろ?」
「ああ、西王母の……」
それは有名な会なようで、孫悟空と玉龍には思い当たるようで、二人は頷いた。
「オレさ、そこで
「ねえ、この話長いの?」
どんな深刻な話が出るのかと思ったらナンパの話しだったので、玉龍はつまらなさそうに鼻息を吐いた。
「飽きるの早っ!……いやまあ聞けよ。嫦娥ちゃんは西王母のお気に入りだったからさ、ナンパしたのが西王母の逆鱗に触れちまってね。鞭打ちの後ここに落とされたんだわ。で、反省したオレは、今度こそ真っ当な人になって生きようと思ったわけ」
「へえ、それで?」
飽きたと言いつつ玉龍は先を促してやる。
「でも転生に失敗しちゃってね。うっかり豚に生まれちゃった」
そう言って猪八戒は笑いながら豚頭の姿に戻る。
ルハードも猪八戒の本当の姿を知っていたのか全く驚かない。
「オレは荒れたよ。ただ綺麗なオネェちゃんとお茶しようとしただけでこんな目に遭うなんてってな。で、その時の大荒れしてたオレを〆たのが観音菩薩ってわけ」
「し、〆た……」
懐かしそうに語る猪八戒とは真逆に、同じく〆られた経験のある孫悟空は顔を青くした。
「今生きてるから笑って言えるけど、あれは死ぬかと思ったわ」
「いや笑えるのすげえよ……」
しみじみと遠い目をして言う猪八戒に、孫悟空は身震いした。
「でね、〆た後、観音菩薩がここに住んでた卯ニ姐にオレを預けてくれて、人の姿を取れる変化の術だとか一式叩き込ませてくれたのよ。いつか天竺にお経を取りに行く僧がくるからお供しろってね」
そう言って部屋の隅から
「これは天蓬元帥時代に玉皇大帝から授けられた、太上老君が作った武器『
「確かに、太上老君の銘があるな」
確認した孫悟空が唸る。