金蟬子は、煌びやかな装束の釈迦如来の弟子たちの中に一人だけ童子の姿目立っていた。
だから鎮元大仙も覚えていたのだ。
「てっきり鎮元大仙も元始天尊さまから聞いていたと思いましたが……」
「いや、元始天尊は何も。そうか、なるほどな……それならば人の身で玉果となるのも頷くけると言うもの……しかし、気づかぬものだな。玄奘どのがあの金蟬子だったとは」
須菩提祖師は深刻そうな顔のままで鎮元大仙を見上げた。
「鎮元、元始天尊は君に玉果の説明を何もしなかったってこと?」
「ああ、聞いてもはぐらかされてな……」
「そうなんだ」
(別に隠すことでもないのになあ……変なの)
須菩提祖師はそう思ったが、口には出さずに微笑んでさらりと流した。
「釈迦如来様は金蟬子を人間の世界に送り出したあと、彼の修行のために幾度となく難をお与えになられたのですが、何度も途中で命を落としてしまって。今生が十度目の転生なのです」
准胝観音が詳しく説明をする。
「十度とは……やけに転生を急がせたのだな」
「やはり釈迦如来様も弟子が可愛いのでしょうね」
准胝観音が苦笑して言う。
人の世界への送り出したものの、なかなか戻らない金蟬子に釈迦如来はヤキモキしているらしい。
その様子を想像して、鎮元大仙はおかしく思って扇に隠れてクスリと笑った。
「それで、釈迦は今度こそ金蟬子を自分のところに戻そうと思って、今までの九つの生で与えるはずだった難を天竺までの道のりの中で与えてるってわけなんだよね」
須菩提祖師の言葉に鎮元大仙は驚いた。
「なんだと……?」
九つ分の生で受けるはずだった難など、容易いものなわけがない。
「その難の一つが玉果となって妖怪たちの襲撃から生き延びること、なんだよね」
「ああ」
須菩提祖師の言葉を准胝観音は頷いて肯定する。
「金蟬子の魂に課せられた目的は、人の身で
鎮元大仙の想像以上に、玄奘が背負うものは大きく重く、彼は言葉が出なかった。
(ああ、だから孫悟空だの捲簾大将だの、物々しい奴らをを共につけているのか)
「ま、今回はウチの子ザルちゃんもいるから大丈夫だろうけどね!」
あっはっはと須菩提祖師は頭の後ろで手を組んで笑う。
「ええ、今生こそ金蟬子を天竺へ戻すために、釈迦如来様は玉皇大帝にも協力を要請し、斉天大聖、天蓬元帥、捲簾大将、玉龍といった護りを彼の周りに配したのです」
そのためにわざわざ捲簾大将を地に堕としたり、猪八戒を豚頭にうっかり転生させてしまったりもした。
「まあ捲簾大将はともかく、他の三人はちょっとした問題児だからね。彼らの指導も、難の一つに入っているよ」
「お前のところの斉天大聖は問題児なんて可愛いモノではないだろう!」
「あっはっは!確かにそうだね!」
鎮元大仙が言うと須菩提祖師は舌をぺろっと出して笑った。