玄奘が目を
窓からは日暮の赤色が差し込んでいる。
「あれ、ここは……」
周りを見ると、そこには眠る弟子たちの姿があった。
いつ入ってきたのか、玉龍が玄奘の布団の中で寄り添うようにして眠っている。
寝台の脇には猪八戒と沙悟浄が椅子に座ったまま寝息を立てている。
孫悟空は、隣の寝台でまだ眠っていた。
「目が覚めていたか」
「准胝観音様」
扉が開き、准胝観音が入ってきた。
その手には盆があり、水差しと杯が載っている。
准胝観音は杯を差し出し、玄奘に飲ませる。
長く眠っていたためか玄奘の喉はカラカラだった。
「ありがとうございます、准胝観音様」
「うむ、顔色も良し。疲れも取れたようだな」
准胝観音は玄奘の状態を観察し、満足そうに頷いた。
「宴の支度ができている。そろそろ起きて、鎮元大仙の元へ行こう」
そう言いながら准胝観音は猪八戒を小突いて起こそうとする。
「ほら、お前も起きろ。仔豚!」
准胝観音に小突かれたが猪八戒は起きず、唇を突き出した。
「ん、ん」
猪八戒はそう言って、自分の唇を指さすだけで目を開けない。
准胝観音は呆れてため息をついた。
「なにタコの真似をしておるのだ。タコの夢でも見ておるのか?お前はタコではなく豚だろう」
「准胝ちゃん、違うよ、ここは目覚めのチュウをひとつ……」
「せぬわバカ豚!!起きているのならさっさと目を開けよ!」
「いでっ!」
赤面した准胝観音がバチンと大きな音を立てて猪八戒の頰を打った。
「いててー……」
そんな二人に苦笑して、玄奘は玉龍と沙悟浄を起こすことにした。
「玉龍、沙和尚、起きてください」
「ううーん、おかわりぃ……」
ユサユサと玉龍をゆすると、夢を見ているのか寝言を言う玉龍に苦笑して、椅子に座ったまま眠る沙悟浄に呼びかけた。
「沙和尚」
「……お師匠さま……?お師匠さま!!」
今まで玄奘の過去世を見送ってきた沙悟浄にとって、長い眠りについている玄奘を見るのは辛かったに違いない。
沙悟浄は涙ぐんで、それを誤魔化すように目を乱暴に擦った。
「すみません、私としたことが寝坊をしてしまいました」
だから玄奘はあえて冗談めかして言った。
「いえ、お目覚めになられて……俺は、俺は……っ!」
「ゴジョー、うるさいよぉ〜」
感極まって玄奘の手を握る沙悟浄に、玉龍は目を擦って文句を言いながら起き上がった。
「あっ玉龍、なにお師匠さまの寝台にちゃっかりと……!」
「なんだよ、ウルセェなあ」
目を吊り上げる沙悟浄の怒声で大あくびをして孫悟空も目をさました。
「あれ、俺様どのくらい寝てた?じいちゃんは?どこ?」
「ああ、須菩提は野暮用があると出掛けて行ったわ」
「じいちゃん相変わらず落ち着きねえなあ」
残念そうに孫悟空が言うと、玉龍はニシシと笑った。
「ゴクウそっくりじゃん」
「なんだと?!」
喧嘩になりそうだったので、准胝観音は手を叩いてそれを止めた?
「さ、目が覚めたのなら行こう。宴だ」
「あっそうだった!オレたちお師匠さんを呼びにきてそのまま寝ちゃったんだ!」
「疲れているのに料理などするからだ。さあ鎮元大仙もお待ちかねだ。行こう」
准胝観音が先導して、玄奘たちは宴の会場に到着した。
宴の会場は五荘観の中庭にある庭園だ。
日が沈みかけ、紅の空の下に
庭園に敷かれた
「おおようやく目覚めたか。さあこちらへ」
上機嫌な様子で鎮元大仙が玄奘を出迎えた。
「鎮元大仙、遅くなりまして申し訳ありません」
「かまわぬ。おかげで馳走もたくさん作ることができた。たくさん食べるといい。それに、月見の宴もなかなかよいだろう」
謝罪する玄奘に、鎮元大仙は大袈裟に手を振る。
そして鎮元大仙の隣に手を引かれ玄奘は腰をかけた。
玄奘の前に置かれた杯にも飲み物が注がれる。
「あの……っ」
「安心せよ、酒ではない。吾輩の畑と果樹園で取れた果実を混ぜた果実水よ。茶の方がよければ茶もあるぞ」
「ありがとうございます」
「吾輩もそんなに酒は嗜まぬのでな。准胝もおるし、今宵は酒なしの宴だよ」
玄奘がほっとして礼を言うと、鎮元大仙は片目を瞑って微笑んだ。
「さあ、主役が来たぞ。みな、月見の宴を始めようぞ!」
鎮元大仙が杯を掲げて言い、月見の宴が始まった。