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第267話 玉龍、アニデシの意地を見せる

 玄奘は弟子を馬鹿にされたことがくやしくて、檻を内側からガシャガシャと揺さぶった。


「ガウッ、ガウッ!!」


 虎の姿になっているからか、玄奘が普段抑えることができている感情も今は抑えきれない。


「そんな、ゴジョーとハッカイオジさんまで……あいつ強すぎるよ……」


 残された玉龍はどうしたらいいか分からず、ただ体の震えを抑えることしかできずにいた。


「まだ子どもですね。あなたはそこでおとなしくしていなさい。僕は子どもをいたぶる趣味はありません。これでも父親ですから」


 まだ崖上にいる玉龍に向かってそう言い、奎木狼は玄奘のはいる檻を押し運び始めた。


「ガウッ、ガウッ!!」


 檻の中で玄奘が暴れ、運ばれまいと抵抗する。


「こら、大人しくしなさい!」


 あまりに玄奘が檻を揺らすので、奎木狼は運ぶことができずに止まった。


「怖い……でも、ボクがやらなくっちゃ……っ!」


 玉龍は元の姿に戻り、再び檻を運ぼうとする奎木狼の前に立ちはだかった。


「ボクは勇ましい龍なんだ!ボクだって、ボクだって、お前を倒せるんだからな!!」


「そんな涙目になって震えながら……よろしい。ですがこのままの姿では君をボロボロにしてしまうでしょうから、わたしの足枷ハンデとして、同じ龍の姿で戦いましょう」


 奎木狼はサッと印を組むと「疾!」と唱えた。


 すると瞬く間に黄色い龍が現れた。


 奎木狼は玉龍と同じ龍の姿に変化したのだ。


「な、なんで……?!」


 玉龍は巨体になれば人と背丈の変わらない奎木狼を尻尾で簡単に打ち払えると思っていた。


 だが同じ龍の姿に変化されてしまっては体格差を利用できない。


「天の官吏は天の川で暴れる龍とも戦うことがあります。僕はこの姿になって戦うのは初めてですから、良い足枷になるでしょう。さあ、かかってきなさい!」


「そ、そんな……」


 玉龍は気圧されて如意宝珠をギュッと握りハッとした。


(覚悟を決めろ、ボクには如意宝珠があるんだ。あの偽物の龍は如意宝珠を持たない。ボクは二番弟子なんだ。やってやる、オシショーサマのために、やるんだ!!)


「如意宝珠よ、ハッカイとゴジョーを回復して!それからボクに勇気を!」


 玉龍が唱えると如意宝珠が輝き、気絶していた猪八戒と沙悟浄が体を起こした。


「おい玉龍、無茶するな!!」


「俺たちに任せて下がってろ!」


 猪八戒と沙悟浄が玉龍の元に駆けつけて口々に叫ぶ。


 その頼もしい言葉に頷きそうになった玉龍だが、唇を引き結んで首を振った。


 家族の中で一番末っ子だった玉龍は、下の兄弟が欲しかった。


 思いもかけず縁を結んだ弟弟子おとうとでしたちを、千年以上生きた玉龍は守らねばと強く思っていた。


「ボクは二番デシなんだ!オトウトデシをまもるのはアニデシの務め!ゴジョーはボクと一緒に戦って!ハッカイオジさんは、ゴクウを迎えに行って!!」


「悟空を……?!」


「もうおシショーサマを救えるのはゴクウしかいないよ!ハッカイオジさんの雲はゴジョーのより速いでしょ。外への道は如意宝珠が開くから、だからお願い!」


 玉龍の言葉に沙悟浄と猪八戒は顔を見合わせた。


 そして頷くと、沙悟浄は玉龍の元へ、猪八戒は雲を呼んで空へ上がった。


「如意宝珠よ、ソンゴクウのところへ道を繋いで!」


 玉龍の願いを聞き届けた如意宝珠は壺の中の空に穴を開いた。


 向こうには色とりどりの花や果実の木が見える。


(花果山……!悟空はあそこに……)


 玄奘はその景色を見て、あの時はこんなふうに仲違いするなんて思わなかったと俯いた。


(この虎の姿では謝れない……)


 果たして悟空が来てくれるという確証もない。


 猛獣の声しか出ない口からは言葉は紡げない。


 玄奘の虎の目から大きな粒が落ちた。


「うわぁ、ゴクウってばなんだか天国みたいなところにいるんだね……ってカンシンしている場合じゃないや。オジさんお願い!」


「必ず悟空を連れてくるからな!持ち堪えろよ!」


「大丈夫、まかせて!」


「ああ!」


 猪八戒は二人の返事を聞き、虎の姿になった玄奘に視線を送ってから空の向こうへと出発した。


「さて、もうよろしいですか?猶予をたっぷり与えたのです。少しは持ち堪えてくださいね」


「アリガトね!でも、負けないから!いくよ、ゴジョー!!」


「おうっ!」


「さて、有言実行、していただきましょう」


「グアアアアアッ!!!」


 玉龍は余裕の構えを崩さない奎木狼をキッと睨んで咆哮し、沙悟浄と共に奎木狼へと向かっていった。


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