目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第271話 猪八戒、花果山にてのびのび過ごす孫悟空の元へ辿り着く

 須菩提祖師のところを去った孫悟空は、自身の生まれ故郷である花果山に戻っていた。


 火山の島でもある花果山は地熱の効果もあり温暖で、色とりどりの花が咲き、果実もたわわに実る天国のような場所だ。


「あーむ。う〜ん、うまいな!やっぱり花果山の果物は最高だぜ!」


 岩山の奥の玉座に座りながら、猿たちから差し出される完熟した果物の数々を楽しんでいた。


 芒果マンゴー香蕉バナナ蜜柑みかん柘榴ザクロ


 甘い果実がそこかしこに生っている。


 花果山の猿たちは花果山の主である孫悟空の帰還に喜び、扇であおいだりノミ取りをしたり、食べ物を運んできたりと、甲斐甲斐しく世話を焼いている。


 普段なら玄奘の世話をあれこれ焼く側の孫悟空だが、花果山での上げ膳据え膳を満喫している。


「あー食った食った!やっぱり花果山は最高だな。やっぱり破門されて良かったわー!」


 孫悟空は満腹になった腹をさすりながら長椅子に横たわった。


「ねぇ、本当にそれでいいの?玄奘ちゃんのところに戻らなくて」


 そんな孫悟空に顕聖二郎真君けんせいじろうしんくんが声をかける。


 彼は孫悟空が玄奘と旅立った後も花果山の猿たちを心配して時々訪れていたらしい。


 孫悟空が花果山に戻ってきた時も猿たちと果実酒作りをしていたくらいだ。


 顕聖二郎真君は孫悟空が花果山に戻ってからも、自分の住処には戻らず花果山に留まっている。


 破門されたと言う孫悟空を心配しての行動だが、孫悟空は気づかない。


「いいのいいの。だって俺様は破門されたんだから」


 孫悟空は大袈裟に身振りを加えてそう言うと、腕枕をして寝転がった。


「へぇ、そうなんだ。でもそれにしては石猿ちゃんはもう仏の修行者でもないのに魚も肉も食べないし、オレたちが作った果実酒にも手をつけないじゃん。戻りたいなら早く戻ればいいのに」


「うるせえな、俺様は果物とか木の実の方が好きだし酒よりこの山のキレイな湧き水が好きなの!それよりお前こそこんなところで油売ってていいのかよ!また鐘馗しょうきのおっさんが大騒ぎで呼びに来るぞ」


「オレはちゃんとじいやに許可もらってきてるからいいんだよ。川の神としての仕事だってサボってないし」


 自慢げに言う顕聖二郎真君に、孫悟空は舌打ちをした。


「そうだ!石猿ちゃんが戻らないなら、代わりにオレが旅の手伝いをしようかな!いいよね?石猿ちゃん!」


「はぁ?何言って……」


「だって石猿ちゃんは破門されたし戻る気もないんだろ?」


 顕聖二郎真君は寝っ転がったままでいる孫悟空の顔を覗き込んで言う。


「ま、まあ、お師匠様がどうしてもって地面に頭擦り付けて頼んできたなら戻ってやってもいいけどな」


 孫悟空は眉間に皺を寄せ、近づいてきた顕聖二郎真君の顔をどかして背を向けて言った。


「悟空!」


 そこへ突然、息を荒らげた猪八戒が飛び込んできた。


「は、八戒?」


 猪八戒は玉龍が開いた道を通り、仙力を最大まで使って雲を飛ばしてきた。


 あまりに勢いをつけてきたものだから、衝撃で調度品などが大きな音を立てて吹き飛ばされた。


「お師匠さんが大変なんだ!」


 猪八戒は荒い息をつき、体を震わせながらやっとの思いで叫んだ。


「なに、お師匠様が?!」


 ただならぬ猪八戒の様子に、孫悟空は長椅子から飛び起きて猪八戒を助け起こそうとした。


「一体何が……って、俺様にはもう関係ないことだから知らねえよ!」


 だが途中で我にかえった孫悟空は、頭を掻いて再び長椅子に腰掛けるとそっぽを向いた。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?