自分が子どもの頃におねしょをした回数……たとえ知っていたとしても、弟子の前で答えられるわけがない。
玄奘は真っ赤な顔をして俯いた。
「なんだ、あの問題は」
「おいコイツら、ハナからお師匠様に正解なんてさせる気ないぜ」
「ああ、きっと攻撃が来る、気をつけろ……!」
「うん……っ!」
孫悟空たちは周囲を取り囲む僧兵たちが襲いかかってくるだろうと考え、緊張感を高まらせ身構えた。
しかし。
「せいかーい!!」
ジャーンジャーン!と輪念が銅羅が二回打ち鳴らした。
「へ?!」
「玄奘は数え切れないくらいおねしょをしている!!」
さらに殊音が言うと、輪念がジャンジャンジャンジャーン!!と、派手に銅鑼を打ち鳴らした。
「嘘です!そんな、数えきれない位なんてしていません!!」
玄奘の顔はさらに赤くなり、涙目だ。
「お前の夜泣きには我々も大変な思いをしたものだ」
「お布団が冷たくなっちゃってびっくりしたんだよな」
「晴れてる時ならいいけど、雨の時期は困ったよ。泣くたびに1人ずつ布団が濡らされるもんだからさ」
僧兵たちも玄奘の赤ちゃん時代の話に花を咲かせている。
玄奘は顔をさらに真っ赤にして叫んだ。
「あっ赤ちゃんの時のおねしょは数えなくてもいいじゃないか!!」
つい口調も砕けたものに戻ってしまった。
「おむつも足りなくなるしなあ」
坊主たちは「大変だったけどいい思い出だ」としみじみしている。
「ばっ、そんなこと、もっ、兄さまたちのばかばかばか!ばかー!!!」
玄奘は孫悟空よりも顔を赤くして涙目だ。
「お師匠さん……」
「お師匠様……」
玄奘が不憫になり、猪八戒たちは複雑な表情でつぶやいた。
「あっあなたたちは耳を塞いでいなさいっ!師匠命令ですっ!」
これ以上恥ずかしいことを言わされてはたまらないと、玄奘は弟子たちを睨みつけて言う。
「え〜……ボクたちもう聞いちゃったよ〜」
「おねしょなんて、子供ならだれでもみんなしますよ。うちの
「……沙和尚とはしばらく口を聞きたくありません」
「なっ、何故です?!」
慌てる沙悟浄に、ツンと玄奘はそっぽをむいた。
「第二問!」
ジャーン!銅鑼の音が響く。
「ねえこれ近所迷惑じゃない?」
ヒソヒソと玉龍が言う。
「まだあるのもういいじゃないですか?!!」
「玄奘が寺でかくれんぼをしてそのまま寝落ちして大騒ぎになったのは何回だ!」
玄奘の悲痛な叫びには構わず、照慶は問題を出す。
「えっ、えっと……二回?」
今度はまだマシな問題だとホッと胸を撫で下ろし、玄奘が答えると、正解の銅鑼の音が響き渡る。
「正解!続いて第三問題……」
「──って、いい加減にしてください!一体何の意味があってこんなことをするのです!それに、私のあれやこれやなんて、あなたたちも覚えていないでしょう?!」
玄奘が叫ぶと、照慶は自信ありげに分厚い冊子を懐から取り出した。
「ここに玄奘の成長の記録が残っている!ここにはご飯で食べたもの、ねんねの時間などつぶさに記録してあるのだ!」
「うちのお寺の孤児たちはみんなこう言った記録をつけてるの、キミが玄奘なら知ってるでしょ」
大声で言う照慶に、殊音が人差し指を立てて説明を付け足した。
さらに輪念が付け足す。
「子どもたちの体調を知っておくことは、命を預かるものとして当然だからな!お世話当番に共有する必要もあるのだ!」
「ああっ、そうだった……そうでした……」
玄奘は僧侶たちの言い分に天を仰いで顔を覆った。
「そう嫌がるな。ならば、次で最後にしよう」
「次?まだあるんですか……もう私が玄奘だってわかっているでしょうに」
玄奘が言うと、照慶はオホンと咳払いをした。
「最後の問題!この人は誰?!」
ジャーンと銅羅が鳴らされ現れたのは1人の女性だった。