フェルディア様に、熱烈なアプローチを受け、私の気持ちも惹かれていったので、結婚することになりました。フェルディア様にとても大切に愛されて、幸せです。
とはいえ、第一第二皇子の年代に合う子女は、私以外公爵家くらいの地位ではいなかったので、例え愛すことができなかったとしても、公爵家としては断ることはできなかったでしょう。
そう思うと、フェルディア様を好きになって結婚できるのは、すごく幸せなことですわ。
そのことで、一度、フェルディア様とお話していたことがございました。
「我が公爵家以外、フェルディア様に合う身分の子女はおりませんものね。……もしも、私が断ったら、フェルディア様はどうなさったのかしら? 男子と偽装結婚? 他所の家の方を養子にしたとか?」
血筋を優先する我が国では、養子も考えにくいなと思いながら、首を傾げて問いかけました。
「やめてくれよ! 本当にユリーシャと結婚せずに済んで、愛するマリーと結婚できて本当に良かったよ……。兄上が継承権剥奪された時点で、マリーの結婚相手は僕だけだったし、僕たちが“運命”だったんだよ。他のパターンなんて考えないで」
うるうるとした目で懇願され、それ以上からかうのはやめました。
ーーーー
幸せな結婚をして、三年後。短期留学予定だった元第一皇子のオズベルト様とメルル様が戻っていらっしゃいました。ハノン様が“矯正した”とおっしゃっていましたが、まさに、人が変わったようなお二人になられていらして、驚きましたわ。
オズベルト様は、私たちの執務室に謝罪にいらっしゃいました。私たちの姿を認めると、即座に土下座なさいました。
「クズな僕を許してください。一生をお二人に捧げます」
そっと、私の足元まで這ってきて、こうおっしゃいました。
「靴を舐めてもよろしいでしょうか?」
その姿を見たフェルディア様に、蹴飛ばされていた。
メルル様は、ドアの目の前から一切動かず、ひれ伏し続けていらっしゃいました。
「クソみたいな私を使ってください。何でもします。申し訳ありません。私は社会のゴミです」
その姿を見て、満足げな様子の皇后陛下が微笑んでお二人におっしゃいます。
「オズベルトとその女は結婚なさい。よかったわね、愛し合う人と結婚できて」
「ありがとうございます。ご慈悲に感謝します。僕には相応しくない素敵な女性メルルと結婚できることを光栄に思います」
皇后陛下がチラリとメルル様に視線を向けると、メルル様が発言の許可を求められます。
「発言をお許しいただけるのでしょうか? ……私めの汚い声でみなさまのお耳を汚してしまわないか心配になってしまいますが、元第一皇子ともあろう高貴で優しいオズベルト様と結婚できる許可を誠にありがとうございます」
メルル様は、一度も顔を上げずにひれ伏したままそうおっしゃいました。目下の者からはなしかけないというマナーを理解なさったようですが、極端ですわね。
私たちへの謝罪が済みましたので、お二人が揃って退出なさいます。
これから、お二人に宛てられた執務室で働いてくださるそうです。馬車馬のように働きたい、とおっしゃっていらっしゃいました。先ほど、少し仕事をお任せしてみたら、今までのお二人では到底できなかった量の業務をサクサクとこなしてくださいました。
フェルディア様と仕事の合間に少しお話しいたします。
「お二人が戦力となってくださり、とても助かりますね? フェルディア様?」
「あぁ、そうだね。マリーを傷つけたことは許せないけど、役に立ってくれていると思うよ」
ちょうど私たちの仕事を手伝いにきてくださっていた皇后陛下が、優しい微笑みを浮かべてシュバシュバと仕事を終わらせていきます。
「結局、あのお二人は、別れることはなくてよかったですね」
オズベルト様の取り巻きたちは一斉に去っていったことを思い出したので、お二人は別れなくてよかったなと思って、皇后陛下に話をふりました。
いつも通りの優しい笑顔で皇后陛下はおっしゃいました。
「あなたたちのせいで何もかも失ったという話よりも、真実の愛に目覚め、皇帝皇后両陛下に従う二人の方が、帝国民に聞かせるにはいいでしょ?」
そこまで考えていらっしゃったのかと背筋が少しぞくりとしました。
皇后陛下のお父様が女好きで、幼い頃から苦労した皇后陛下にとって、浮気した元第一皇子はいまだに許せない存在のようです。
一度、若い女に走りかけた皇帝は、許されてはいるものの、家庭内では皇后陛下の絶対王政が敷かれているので、相談役としてお話を伺っているとまだ許せていないんだろうなと感じます。
「兄上もあんなに浮気者は最低って聞かされて育ったのに、なんで自分は母上に許されると思っちゃったのかな?」
フェルディア様がこてりと首を傾げて呟いていらっしゃいました。
ーーーー
オズベルト様とメルル様が留学された帝国男子学園と王立経営学園で特殊授業の教鞭を執っているハノン様が、お二人に遅れてご挨拶にいらっしゃいました。
「私、第一皇子も第二皇子も同じように育てたはずですのに、こんなにも性格が変わってしまって……不思議ですわ」
うっとりとするほどの優雅さで疑問を問いかける皇后陛下に応えるのは、相変わらず優しそうな老紳士という見た目のハノン様でいらっしゃいます。
「生まれ持った性格というのは、環境によって影響を受けても、変えられないんです。だから、正しい愛情を持って育てている限り、親のせいじゃないんですよ。もちろん、育てる環境によって、変わってしまう可能性もありますがな。異常な愛情を与えすぎることも、与えないこともいけません。難しいです。ですので、私は、今回お二人には、子供のうちに行ったのならば、精神から壊れてしまう教育をしたんです。だから、オズベルトくんも、両陛下の愛情を一心に受けた幼少期がなかったら、ここまで矯正できませんでしたよ」
ニコニコとハノン様が説明なさいます。
「まぁ! 学園ではどんな教育をなさったのかしら? 今後のために知りたいわ……ねぇ、あなた?」
ちょうど部屋を覗きにきた皇帝陛下に、皇后陛下は微笑みかけられます。
「あ、あ、あぁ……」
皇帝陛下は、顔を青ざめながら、固まってしまいました。
「教育内容は企業機密ですが、ご参考までに、皇后陛下は、どのようなことを矯正されたいのですか?」
ハノン様は、ニコニコと穏やかに問いかけられます。
「私、浮気だけは絶対許せませんの。軽い気持ちを抱くことすら。ですので、他の女性に興味を持たないようにしたいですわ」
「あぁ! なら、いい方法がありますよ」
「大丈夫です! 大丈夫です! 大丈夫です! あの件以来、君以外の女性を女性と認識したことはございません。ちゃんと魔法は効いております!」
皇帝陛下が慌ててお二人の間に割り込んでいらっしゃいました。
「あら、本当かしら?」
「おや? 皇后陛下もなかなかの腕の持ち主のようですね……よかったら、ぜひ我が校で教鞭をとりませんか?」
「まぁ! もしもフェルディアが浮気なんてした時に、学ばせていただいておけば、とても役立つものね」
「大丈夫です! 母上! 私は一目見た時から一途にマリーを愛しております」
慌てた様子のフェルディア様が、皇后陛下を止めに入られます。
「……じゃあ、マリー? もしも、何かあったら、一番にお義母様に言うのよ? 疑わしいだけでもすぐに言いにいらっしゃい? お義母様がうるさい羽虫を潰して差し上げるわ?」
にっこりと笑顔で皇后陛下は、私に微笑みかけてくださいます。強い味方を手に入れることができました。私の嫁姑問題は、このように解決したのです。
今後、私の姑皇后陛下は、私に嫌な思いをさせるものをすべていじめてくださるとのことですわ。