世界は、
数年前、奴らは空を覆うほどの巨大な宇宙船とともに現れ、人類にこう宣告した。
【お前たちは、たった今より我々の管理下に入る。我々に従う限り、安全と日常は保証する】
当然、世界のリーダーたちは軍事力で抵抗した。しかし、異星人どもは常識外れに強かった。
彼らの乗り物や道具は、この世界の物理法則を無視するかのように、あらゆる攻撃を シールド で無効化した。さらに彼らの攻撃は、人類のあらゆる物理防御を貫き、破壊し、殺傷できた。まるでファンタジーゲームの魔法のようだった。
完全敗北した人類は、生殺与奪の権を完全に握られ、結局
その後は約束どおり、人間の社会は維持され、人々はいつもと変わらない日常を送っている。
ただし、空には巨大な宇宙母船が俺たちを見下すように偉そうに浮かび、そこら中に
それでもレジスタンス的な組織はいくつか存在し、時々ゲリラ的に行動しているようだが、人類の兵器では、異星人どころか監視ドローンですら撃ち落とすことはできない。意味不明なシールドで守られて、物理攻撃が効かないのだから、どうしようもない。
正直、奴らの目的が何なのか、今後人類をどうしたいのか、未だによく分からない。
とはいえ、反抗しなければ
「どうせ逆らったって勝ち目はないしな……」
「まあ、従っていれば普通に暮らせるし」
そんな空気が世の中に広がり、人類は徐々に異星人の支配を文字通り『受け入れた』んだ。
──しかし、俺は違った。
(ふざけるなよ……こんなの、俺の望んだ世界じゃない)
俺の予想(妄想)では、いつか奴らが真の目的のために暴れ始めた時、俺の封印された能力が覚醒し、人類を救うことになる 設定 なのだ。
だからこそ俺は、毎日のように奴らを倒す為のシナリオを妄想し続けている。あのドローンだって、俺の右腕に秘められた 灼熱の火球 で何千回と(妄想で)破壊してきた。
つまりどんなに世界が変わったとしても、妄想することをやめないことだけが、俺の唯一の取り柄だと言える。
だが──結局、奴らは暴れないし、秘められし俺の能力も覚醒していない。
つまり、未だ誰もこの世界を変えられていない。
──やっぱり所詮はただの妄想。
どんなに為政者が変わったとしても、現実の俺は、かわらず ぼっち で、ただの痛い妄想男子なのかもしれない。
やっぱり俺に、世界を救う力なんてない…… はずだった 。
「……なんだ、あれ?」
ある日の下校途中、俺は人気のない公園で異変に気づいた。
草むらの中に、ゴーグルのような奇妙な機械が落ちている。見るからに人類ではなく、異星人の技術で作られたモノっぽい。
「まさか異星人の超科学デバイスか?……それともただのオシャレアイテム?」
俺は興味本位で、そのゴーグルを拾い、顔に装着した。
ピピピ……
その瞬間、俺の頭の中に、まるで隣で誰かが囁いているかのように、クリアな女性の声が響き渡った。
『 言語設定完了。思考拡張デバイス接続完了。 』
突然の声に、俺はビクリと肩を震わせる。なんだ、これ。頭の中で直接聞こえる……!?
『 脳波測定……適合確認。 』
その声は感情をほとんど感じさせないものの、なぜか 慈愛 のような響きを帯びている気がした。
『 能力値……計測限界に達しました。 』
続けて、その声は、驚くべき言葉を紡ぐ。
『あなたを最適な所有者と判断します。』
俺は、ごくりと唾を飲み込んだ。最適な、所有者……?
『私は、ニューロ・バイザーに搭載された高性能AIです。自己保全アルゴリズムに基づき、より高位の能力を持つ個体に 最高のサポート を提供するよう設計されています。』
まるで、俺の存在そのものを肯定するように、AIは言葉を続ける。
『あなたの思念エネルギーは極めて稀有であり、私の全能力を 完全に開放 するに値します。』
「は……?」
俺の口から、情けない声が漏れた。認められる?この俺が?まさか、AIに褒められている……?
『よって開放レベル……SSSに設定します。これより、あなたの妄想……もとい、思考を、現実に具現化するサポートを約束します。』
「妄想……って、おい!」
思わずツッコミを入れると、AIの声がほんのわずかに、しかし確かに 楽しげな響き を帯びた気がした。
『妄想、それは素晴らしい概念です。自己の精神世界を揺るぎなく構築し、それを現実世界に投射する。あなたの妄想力は、この世界のどんな物理法則をも超える可能性があります。』
「ま、マジか……そんなに言われると、なんか恥ずかしいな」
妄想癖を人生で初めて褒められたかもしれない。
やばい。俺、AI相手に、本気で照れてる。
『ご安心ください、マスター・シン。あなたは 最強のパートナー として、私の全てを捧げる価値とポテンシャルがあります。』
マスター……?最強のパートナー……?
あまりにも眩しすぎる言葉に、俺は顔が熱くなるのを感じた。
しかし、ただでさえ厨二病扱いされているのに、こんなもの普段からかけてた日には……
「……俺の設定では、ヒーローは普段、地味で目立たないメガネでカムフラージュするんだけど」
そう話した瞬間、デバイスの形状が普通のメガネに変化した。
「あれ?形状が変わった?……まさか、もしかして……これもいける?」
次に妄想したのは、常日頃思い描いていた黒い仮面で正体を隠し、敵を欺くダークヒーローの姿。
するとメガネが想像したままの黒い仮面の姿へと見た目が変化した。
漆黒の金属に刻まれた奇妙な紋様。それはまるで異界の技術と人間の美意識が融合したかのような……まさに厨二病仮面。
人前で被るのは憚られるが……いいね正直、俺の好みだ。
にしてもまさか、このデバイス……本当に俺の妄想を現実に変える力を持っているのか……
「ならいっちょ……試してみるか」
俺はふっと笑い、自分が妄想し続けてきた"あの技"を唱えた。
「我が右手に封じた漆黒の炎よ、その怒りを解放せよ……!」
すると ――ボッ!
俺の手のひらが、燃え上がった。
「……いやいや、何これ、本物の炎?CG?特殊効果?いや、そんなはずはない。ちゃんと熱い。俺の手が、マジで燃えてる!?」
これは絶対に妄想じゃない。俺の手が、間違いなく
「すげえ!さすが異星人のデバイス……やばすぎる!」
しかし、その時だった。
ウィンウィンウィン……!
空から、異星人の監視ドローンが降りてきた。
『警告……監視ドローンが、あなたの思念エネルギーに反応し、こちらに向かってきています』
AIは淡々と告げる。
「やべぇぇぇぇ!見つかった!?俺、抹消される?!」
『最初の実戦テストとしては、最適な獲物かと思われます。』
「無茶言うなよ!」
(いやまて、
俺は手に浮かべていた炎を見つめる。
「我が怒りの炎よ…… 灼熱の火球 となり眼前の敵を焼き尽くせ!」
──すると妄想のまんまに 灼熱の火球 が発動した!
「
すると火球が放たれ、監視ドローンを 一瞬で焼き尽くした 。
その技の発動から効果まで、すべてが"妄想してきた設定"そのままだった。
「もしかして、俺の妄想力が……武器になるのか」
『その通りです、マスター。これより、あなたは
こうして俺は、どんな物理攻撃も効かないはずの異星人の武器を破壊した 初の人類 となった。