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第2話 妄想英雄「俺の中二病が武器になる日」

 今現在の世界、つまり地球は、支配者オーバーマインドと名乗る異星人に操られている。


 
彼らはある日、空を覆うほどの巨大な宇宙船とともに現れ、人類にこう宣告した。
 



【お前たちは、たった今より我々の管理下に入る。我々に従う限り、安全と日常は保証する】


 もちろん、それを聞いた世界のリーダー達は軍事力をもって抵抗したさ。


 しかし異星人達は、それはもう非常識に強かった。


 彼らの乗り物や道具は、この世界の物理法則を無視するかのように、あらゆる攻撃をシールドで無効化した。


 さらに彼らの攻撃は、人類のあらゆる物理防御を貫いて、破壊、殺傷することが出来た。


 それらの技は科学というより、まるでファンタジーゲームに出てくる魔法に近いものだった。


 完全敗北した人類は……生殺与奪の権を完全に
異星人達に握られ、結局、支配者オーバーマインドに服従することを選んだ。


 その後は約束どおり、人間の社会は維持され、人々はいつもと変わらない日常を送っている。


 ただし、巨大な宇宙母船は俺たちを見下すように、偉そうに上空に浮かんでいるし、そこら中に支配者オーバーマインドの監視ドローンが飛んでいて、不審な行動をするものを抹消する。


 それでもレジスタンス的な組織はいくつかあって、時々ゲリラ的に行動しているようだが、人類の兵器では、異星人どころか監視ドローンですら撃ち落とすことは出来なかった。


 なんせ意味不明なシールドで守られてて物理攻撃が効かないんだから、どうしようもないのだ。


 正直、奴らの目的がなんなのか、今後人類をどうしたいのか。未だによく分からない。


 とはいえ、反抗しなければ――支配者オーバーマインドの管理下で学校も、仕事も、娯楽も「いままで通り」が許されているわけで、もはや逆らおうなんて輩は皆無だった。


「どうせ逆らったって勝ち目はないしな……」

「まあ、従っていれば普通に暮らせるし」


 そんな空気が世の中に広がり、人類は徐々に異星人の支配を文字通り『受け入れた』んだ。  
 





 ——しかし、俺は違った。



(ふざけるなよ……こんなの、俺の望んだ世界じゃない) 
 



 俺の予想(妄想)では、いつか奴らが真の目的のために暴れはじめた時、俺の封印された能力が覚醒し、人類を救うことになる『設定』なのだ。


 だからこそ俺は、毎日のように奴らを倒す為のシナリオを妄想し続けている。あのドローンだって、俺の右腕に秘められた”灼熱の火球”で何千回と(妄想で)破壊してきた。 
 



 つまりどんなに世界が変わったとしても、妄想することをやめないことだけが、俺の唯一の取り柄だと言える。
 



 だが—— 結局、奴らは暴れないし、秘められし俺の能力も覚醒していない。


 つまり、未だ誰もこの世界を変えられてない。 
 



 ――やっぱり所詮はただの妄想。


 どんなに為政者が変わったとしても、現実の俺は、かわらず”ぼっち”で、ただの痛い妄想男子なのかもしれない。


 やっぱり俺に、世界を救う力なんてない……はずだった。




「……なんだ、あれ?」



 ある日、俺は下校途中、人気のない公園で異変に気づいた。 



 草むらの中に落ちてる、ゴーグルのような形状をした奇妙な機械。

 見るからに人類ではなく異星人の技術で作られたモノっぽい。
 



「まさか異星人の超科学デバイスか?……それともただのオシャレアイテム?」  



 俺は興味本位で、そのゴーグルを拾い、顔に装着した。


 ピピピ……


 :言語設定完了。

 :思考拡張デバイス接続完了。


 突然、頭の中に機械的な声が響いた。


 :脳波測定……適合確認。

 :能力値……計測限界に達しました。

 :開放レベル……SSSに設定しました。



 
「えっ……なんだこれ!?」


 慌てて外そうとしたが、顔にピッタリ張り付いて外すことができない。
 


 :エラー・解除コードが必要です。
 



 例の機械音が俺にそう告げた。
これは絶望的状況だ。


 俺は近くの公衆トイレに駆けこんで洗面台の鏡を見た。
 


 そこには、おかしな異星人のゴーグルをかけた間抜けな姿の俺が立っている。


 ただでさえ厨二病扱いされているのに、こんなものかけてた日には……




「なんだよこれ……俺の設定では、ヒーローは普段、地味で目立たないメガネでカムフラージュするんだよ!」


 そう妄想した瞬間、デバイスの形状が普通のメガネに変化した。
 



「あれ?形状が変わった?……まさか、もしかして……これもいける?」


 次に妄想したのは、謎の仮面で正体を隠し、敵を欺くヒーローの姿。

 するとメガネから想像したままの黒い仮面の姿へと見た目が変化した。


 漆黒の金属に刻まれた奇妙な紋様。それはまるで異界の技術と人間の美意識が融合したかのような……まさに厨二病仮面。人前で被るのは憚られるが……いいね正直、俺の好みだ。


 にしてもまさか、このデバイス……俺の妄想を現実に変える力を持っているのか……


「いっちょ……試してみるか」  


 俺はふっと笑い、自分が妄想し続けてきた"あの技"を唱えた。
 



「我が右手に封じた漆黒の炎よ、その怒りを解放せよ……!」


すると ――ボッ!

俺の手のひらが、燃え上がった。


「……いやいや、何これ、本物の炎?CG?特殊効果?いや、そんなはずはない。ちゃんと熱い。俺の手が、マジで燃えてる!?」


 これは絶対に妄想じゃない。俺の手が、間違いなく現実リアルに炎を生み出している。
 



「すげえ!さすが異星人のデバイス……やばすぎる!」



 しかし、その時だった。



 ウィンウィンウィン……!


 空から、異星人の監視ドローンが降りてきた。

 デバイスの異常を感知したのか、機械的な声が響く。 
 



【異常エネルギー反応確認。対象、即時拘束。】


「やべぇぇぇぇ!見つかった!?俺、抹消される?!」


(いやまて、ドローンこいつを倒す妄想なら、何千回と試してきた!いまやらなくて、いつやるんだよ俺!)


 俺は手に浮かべていた炎を見つめる。


「我が怒りの炎よ……灼熱の火球となり眼前の敵を焼き尽くせ!」


 ――すると妄想のまんまに”灼熱の火球”が発動した!



爆砕デストーション!」


 すると火球が放たれ、監視ドローンを一瞬で焼き尽くした。


 その技の発動から効果まで、すべてが"妄想してきた設定"そのままだった。  
 



「……もしかして、俺の妄想力……武器になるんじゃ」



 こうして俺は、どんな物理攻撃も効かないはずの異星人の武器を破壊した”初の人類”となった。



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