俺はゆっくりと足を踏み出した。
校庭の中央——タイタンズの隊長と、その配下が俺を取り囲む。
彼らの顔には、自信と余裕の笑みが浮かんでいた。
(……わかりやすいな)
これは完全に、"獲物を仕留める前のハンター"の顔だ。
俺がここに来るのを計算していた……つまり、
罠だ。
「貴様が“仮面の男”か」
隊長が冷笑を浮かべながら、銀色の盾を構えた。
「バカなヤツだ。わざわざ出てくるとはな」
……と、次の瞬間。
——ドゴォォォォォン!!!
校庭の地面が炸裂した。
(対人クレイモア!)
俺の足元を中心に、強烈な衝撃波が四方八方に広がる。
威力は抑えてあるみたいだったが、まともに喰らえば動けなくなっていただろう——だが。
俺は、爆発の直前にふっと後方に跳躍し、まるで"爆発を予知していた"かのように軽々とかわした。
「……貴様どうやって……!?」
動揺する隊員たち。
「フン……仕掛けが“単純”なんだよ」
俺は余裕の笑みを浮かべながら、彼らを見下ろした。
「俺は常に"闇の勢力"に命を狙われている。罠があることくらい……常日頃警戒しているのさ」
そういう設定にしといて——良かった!
毒針の罠、落とし穴、爆裂魔法陣——俺はあらゆる暗殺を想定し、"逃れ方"を学校の行き帰りや休日の散歩中も、日常的に罠をくぐり抜けるシミュレーション(妄想)をしていた。
よって罠なんて……あるのがディフォなわけよ。
屈強な隊長らしき男が、観察するような目で俺を見る。
「本当にドローンを破壊した本人か?……とりあえず名を聞かせてもらおうか」
「俺は、俺の名は……」
やばい、まったく考えて無かった。
まさか本名を名乗るわけにもいかないし、どうする、どうしよう。
俺は静かに右手を掲げる。
「——
すると、俺の腕を中心に黒炎がうねるように広がり、巨大な爪の形状を作り出した。
「我が名は『
「イマジナリー……ヒーロー?」
隊員たちは息を呑んだ。
そして黒き炎の爪が、まるで生き物のように蠢きながら、俺の周囲を覆っていく。
その圧倒的な威圧感に、誰もが一歩後ずさった。
「こ、こいつ……なんで大袈裟に演技がかった話し方をするんだ!?」
動揺する隊員たちを見て、隊長が苛立ったように叫ぶ。
「貴様!何かを演じて、正体を隠しているんじゃないのか?」
(あったりまえだろ……正気でこんな言動できるかよ)
内心で呟きつつ、俺はさらにオーバーアクションな演技を加えた。
「フフ……俺は“選ばれし者”という正体を隠し、常に孤独と戦ってきた……」
そう言いながら、ゆっくりと一歩前へ。
「この右腕に刻まれた黒焔の呪い……破滅の力、貴様らの矮小な盾で防げると思うなよ?」
俺は
「バカめ……! これは
隊員たちは、余裕の笑みを浮かべながら盾を構えた。
だが——
「 ——
ドゴォォォォン!!!!
俺が叫んだ瞬間——
すべての盾が爆裂し、粉々に砕け散った。
「なっ……!? た、盾が……消し飛んだ……だと……!?」
驚愕する隊員たち。
(やったぞ!……やっぱり妄想攻撃なら
「……焦るな」
突然、隊長が静かに笑い始めた。
「どうやら、貴様……普通の人間ではないようだな」
そして、ゆっくりと服を脱ぎ捨てる。
「……なっ!?」
現れたのは——全身を覆う異星人製のバトルスーツ。
「これはドローンや盾とは比較にならない強度を持つ、
「ふっ……捕えよとの命令だったが、気が変わった」
隊長は不敵に笑う。
「お前は、ここで潰しておく」
「……!!」
「俺は元自衛隊、第一空挺団のエース。特にCQB(近接格闘術)じゃ誰にも負けたことがない。お前、格闘戦は素人だろ?動きで分かる」
第一空挺団て、“狂ってる団”とか言われてた超人部隊じゃん。しかもエースって……やばいだろ!
「都合が良いことに、ドローンからここは見えていないようだしな」
そう言うと、隊員たちが白石アキラを立たせて、その喉元にコンバットナイフを突きつける。
「もし炎を使えば生徒会長とやらは酷い目に遭う。つまりここからは肉弾戦のみ……意味は分かるな?」
隊長がにやりと笑う。
「白石が人質じゃどうしようもないな」
「やばいんじゃね?あの黒仮面、体型は俺らと変わらないぞ」
「格闘戦は素人じゃプロには絶対勝てないっていうしな」
「ていうかこの条件はズルくね?」
戦いを見つめる生徒たちも同様しながら息を呑む。
すると隊長が勝ち誇ったように言う。
「ヒーローってやつは不便だな。大抵このパターンでピンチになる」
「だが、結局勝つのがヒーローだろ?」
「アニメならな!これは現実の戦いだ、クソガキ」
隊長が笑う。
たしかに、普通のヒーローなら、こういう状況は”詰み”だろう。
味方が人質に取られ、炎の能力が封じられ、相手は異星人製の無敵バトルスーツを着込んだ格闘のプロ。
常識的に考えて、まともにやり合ったら勝ち目はない。
だが——
「フッ……“現実の戦い”ねぇ」
俺はゆっくりと口元を歪め、仮面の奥で笑った。
「お前らは——大きな勘違いをしてる」
隊長が目を細める。
「何?」
俺は、軽く肩をすくめながら答えた。
「俺の戦いは、最初から”現実”じゃねぇんだよ」
その瞬間——
「——
ゴォォォォォッ!!
漆黒のオーラが全身から溢れ出すと、幻影の様な黒い翼が俺の背中に現れる。
「なっ……!?」
隊員たちが後ずさる。
俺は両手と翼をゆっくりと広げた。
その姿はまるで”黒炎の翼”を纏った天使のようでもあり、悪魔のようにも見える。
さらに、漆黒の焔が俺の身体を覆っていく。
「目に見えるものだけが真実じゃない」
俺は静かに呟く。
——ドンッ!!
次の瞬間、隊長の足が地面を蹴ると同時に、まるで銃弾のような速さで俺との距離をゼロにする。
(は、速っ!!)
目にも止まらぬ動き——まさに”プロの戦場技術”だ!
「甘い!」
バゴォッ!!!
俺の視界がブレる。
(……ッ!?)
隊長の拳が、俺のガードを超えて腹にめり込んでいた。しかし漆黒の焔がダメージを吸収、痛いっちゃ痛いが耐えられる。
続けざまに肘打ち、裏拳、膝蹴り——そのすべてが、超近距離で最適な角度から叩き込まれる。
これってあのゲームのまんまじゃん!……“ガチのCQB(近接格闘術)”!!
「ほう耐えたか……体は頑丈なようだな」
隊長が冷笑する。
「だが、次は……関節は耐えられるか?」
隊長の動きが変わった。
(この動き……サブミッションか!掴みにくる!?)
ガチの軍人は、長々と打ち合ったりしない。
素早く崩して、確実に相手を拘束——あるいは即死させる。
(サブミッションはやばい、さすがに詰むぞ……!?)
——いや、待て!
こういう状況……俺は何度も経験してるじゃないか。
ゲームの中で!!
格闘ゲーム、ステルスゲーム、FPSのナイフ戦……
俺は”画面越し”とはいえ、数え切れないほどの戦闘を経験してきた。
(相手がどう動くか……次に何をするか——全部、もう知ってる!!)
そう意識した瞬間、隊長の動きが、俺の”ゲーム戦闘データ”と完全に一致した。
(来るぞ……! “組み技”と見せかけてからのテイクダウン、そして——!)
隊長の腕が、俺の首を掴みにくる——
その瞬間!
俺は、わざと隊長の腕に自分の体を預けるようにし——
一瞬、重心を消した。
「……何っ!?」
隊長の腕が空を切る。
その隙に、俺の足が隊長の足下へと滑り込む。
「小キック!からのー」
コンボ「◯竜けーーーん!」
地面を蹴り上げ上昇する俺の拳が、隊長の顎を撃ち抜く!!
——ドゴォォッ!!
「……ぐっあ!!?」
そして隊長の体が大きく吹っ飛ぶ。
「な、何が起きた……!?」
タイタンズの隊員たちが叫ぶ。
「た、隊長が……CQBで撃ち負けた!?」
俺はゆっくりと着地しニヤリと笑った。
「貴様……格闘経験者か!?」
「……フッ、“経験”ってのは、現実だけのものじゃないぜ?」
隊長が苦悶の表情で立ち上がる。
「……訓練された動きだけじゃない…… 何で学んできた……!?」
俺は指をポキポキと鳴らし、ニヤリと笑う。
「“1000時間の格ゲー”と、“2000時間のステルスゲーム”だ」
「え……なんて!?」
「俺は選ばれし者……『想像出来るものは、実現出来る』……だよなぁ白石アキラ」
俺の言葉を聞いた白石は一瞬驚きつつも、ニヤリと笑って頷いた。
「だが、このスーツを破れぬ限り貴様に勝ちはない。今の技は見切った。二度目はないぞ」
ダメージを感じさせず強気に叫ぶ隊長。
その瞬間、俺の右手から漆黒の炎が燃え上がる——!
「おっと破壊の炎はなしだ!」
そう言うと隊員は、白石の喉元にナイフを押し付けた。
その瞬間——生徒会長・白石の周囲の時空が”歪んだ”。
「な……っ!? こ、これは……!?」
隊員たちが混乱する。
「なぜ俺たちの手の中から……!!」
彼らが捕らえていたはずの白石の姿が、“スッ”と消え去る。
「……お前たちは”現実”に縛られすぎている」
俺は静かに呟く。
「相手を誰だと思っているのかしら」
アマデルが屋上から微笑む。
「彼は”黒翼の使徒”なのよ」
白石の身体は、すでに校舎の屋上、アマデルの隣に転移していた。
「こ、こんなバカな……!? いつの間に……!!」
隊員たちは呆然とする。
「——これで俺は、遠慮なく戦えるってわけだ」
隊長の顔が一瞬、険しくなる。
「……なるほどな、だからお前は最初から余裕だったのか」
「さあ、覚悟はいいか?……ヒーローといっても俺は、立ちはだかる敵には容赦しない“黒翼の使徒”だ」
ていうか、そういう設定だ!
「なあ、ここの様子は本当に奴らから見えてないのか?」
「ああ、ドローンからはいつもと変わらない高校の風景が見えてるはずだ」
すると隊長はドカリと地面に座り天を見上げた。
「分かった!俺の負けだ、もう好きにしろ」
「はあ?」
「試すようで悪かったな。あいつらより先にお前を確保したかったんだ」
するとタイタンズの隊員達も隊長と同じように地面に座り込む。
「イマジナリー・ヒーロー……お前に、いや君に、会って欲しい人がいる」