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第7話 妄想英雄「俺の戦いは”現実”じゃねぇ」

 俺はゆっくりと足を踏み出した。


 校庭の中央——タイタンズの隊長と、その配下が俺を取り囲む。

 彼らの顔には、自信と余裕の笑みが浮かんでいた。


(……わかりやすいな)


 これは完全に、"獲物を仕留める前のハンター"の顔だ。

 俺がここに来るのを計算していた……つまり、


 罠だ。


「貴様が“仮面の男”か」


 隊長が冷笑を浮かべながら、銀色の盾を構えた。


「バカなヤツだ。わざわざ出てくるとはな」


 ……と、次の瞬間。


 ——ドゴォォォォォン!!!


 校庭の地面が炸裂した。


 (対人クレイモア!)


 俺の足元を中心に、強烈な衝撃波が四方八方に広がる。

 威力は抑えてあるみたいだったが、まともに喰らえば動けなくなっていただろう——だが。


 俺は、爆発の直前にふっと後方に跳躍し、まるで"爆発を予知していた"かのように軽々とかわした。


「……貴様どうやって……!?」


 動揺する隊員たち。


「フン……仕掛けが“単純”なんだよ」


 俺は余裕の笑みを浮かべながら、彼らを見下ろした。


「俺は常に"闇の勢力"に命を狙われている。罠があることくらい……常日頃警戒しているのさ」


 そういう設定にしといて——良かった!


 毒針の罠、落とし穴、爆裂魔法陣——俺はあらゆる暗殺を想定し、"逃れ方"を学校の行き帰りや休日の散歩中も、日常的に罠をくぐり抜けるシミュレーション(妄想)をしていた。


 よって罠なんて……あるのがディフォなわけよ。


 屈強な隊長らしき男が、観察するような目で俺を見る。


「本当にドローンを破壊した本人か?……とりあえず名を聞かせてもらおうか」


「俺は、俺の名は……」


 やばい、まったく考えて無かった。

 まさか本名を名乗るわけにもいかないし、どうする、どうしよう。


 俺は静かに右手を掲げる。


「——炎滅爪カグツチ!」


 すると、俺の腕を中心に黒炎がうねるように広がり、巨大な爪の形状を作り出した。


「我が名は『妄想英雄イマジナリー・ヒーロー』……この世界を救うため、闇を葬るため、深淵より蘇りし者だ」


「イマジナリー……ヒーロー?」


 隊員たちは息を呑んだ。


 そして黒き炎の爪が、まるで生き物のように蠢きながら、俺の周囲を覆っていく。


 その圧倒的な威圧感に、誰もが一歩後ずさった。


「こ、こいつ……なんで大袈裟に演技がかった話し方をするんだ!?」


 動揺する隊員たちを見て、隊長が苛立ったように叫ぶ。


「貴様!何かを演じて、正体を隠しているんじゃないのか?」


(あったりまえだろ……正気でこんな言動できるかよ)


 内心で呟きつつ、俺はさらにオーバーアクションな演技を加えた。


「フフ……俺は“選ばれし者”という正体を隠し、常に孤独と戦ってきた……」


 そう言いながら、ゆっくりと一歩前へ。


「この右腕に刻まれた黒焔の呪い……破滅の力、貴様らの矮小な盾で防げると思うなよ?」


 俺は炎滅爪カグツチを奴らの盾にぶつけ、炎を纏わり付かせる。


「バカめ……! これは支配者オーバーマインドから与えられた絶対防御の盾だ!人間には決して壊せない」


 隊員たちは、余裕の笑みを浮かべながら盾を構えた。


 だが——


「 ——爆裂デトネーション!! 」


 ドゴォォォォン!!!!


 俺が叫んだ瞬間——

 すべての盾が爆裂し、粉々に砕け散った。


「なっ……!? た、盾が……消し飛んだ……だと……!?」


 驚愕する隊員たち。


(やったぞ!……やっぱり妄想攻撃なら支配者オーバーマインドの武具も壊せる)


「……焦るな」


 突然、隊長が静かに笑い始めた。


「どうやら、貴様……普通の人間ではないようだな」


 そして、ゆっくりと服を脱ぎ捨てる。


「……なっ!?」


 現れたのは——全身を覆う異星人製のバトルスーツ。


「これはドローンや盾とは比較にならない強度を持つ、支配者オーバーマインドの戦士用スーツだ」


「ふっ……捕えよとの命令だったが、気が変わった」


 隊長は不敵に笑う。


「お前は、ここで潰しておく」


「……!!」


「俺は元自衛隊、第一空挺団のエース。特にCQB(近接格闘術)じゃ誰にも負けたことがない。お前、格闘戦は素人だろ?動きで分かる」


 第一空挺団て、“狂ってる団”とか言われてた超人部隊じゃん。しかもエースって……やばいだろ!


「都合が良いことに、ドローンからここは見えていないようだしな」


 そう言うと、隊員たちが白石アキラを立たせて、その喉元にコンバットナイフを突きつける。


「もし炎を使えば生徒会長とやらは酷い目に遭う。つまりここからは肉弾戦のみ……意味は分かるな?」


 隊長がにやりと笑う。


「白石が人質じゃどうしようもないな」

「やばいんじゃね?あの黒仮面、体型は俺らと変わらないぞ」

「格闘戦は素人じゃプロには絶対勝てないっていうしな」

「ていうかこの条件はズルくね?」


 戦いを見つめる生徒たちも同様しながら息を呑む。


 すると隊長が勝ち誇ったように言う。


「ヒーローってやつは不便だな。大抵このパターンでピンチになる」


「だが、結局勝つのがヒーローだろ?」


「アニメならな!これは現実の戦いだ、クソガキ」


 隊長が笑う。


 たしかに、普通のヒーローなら、こういう状況は”詰み”だろう。


 味方が人質に取られ、炎の能力が封じられ、相手は異星人製の無敵バトルスーツを着込んだ格闘のプロ。


 常識的に考えて、まともにやり合ったら勝ち目はない。


 だが——


「フッ……“現実の戦い”ねぇ」


 俺はゆっくりと口元を歪め、仮面の奥で笑った。


「お前らは——大きな勘違いをしてる」


 隊長が目を細める。


「何?」


 俺は、軽く肩をすくめながら答えた。


「俺の戦いは、最初から”現実”じゃねぇんだよ」


 その瞬間——


「——黒焔解放ルシフェル・インフェルノ


 ゴォォォォォッ!!


 漆黒のオーラが全身から溢れ出すと、幻影の様な黒い翼が俺の背中に現れる。


「なっ……!?」


 隊員たちが後ずさる。


 俺は両手と翼をゆっくりと広げた。


 その姿はまるで”黒炎の翼”を纏った天使のようでもあり、悪魔のようにも見える。


 さらに、漆黒の焔が俺の身体を覆っていく。


「目に見えるものだけが真実じゃない」


 俺は静かに呟く。


 ——ドンッ!!


 次の瞬間、隊長の足が地面を蹴ると同時に、まるで銃弾のような速さで俺との距離をゼロにする。


(は、速っ!!)


 目にも止まらぬ動き——まさに”プロの戦場技術”だ!


「甘い!」


 バゴォッ!!!


 俺の視界がブレる。


(……ッ!?)


 隊長の拳が、俺のガードを超えて腹にめり込んでいた。しかし漆黒の焔がダメージを吸収、痛いっちゃ痛いが耐えられる。


 続けざまに肘打ち、裏拳、膝蹴り——そのすべてが、超近距離で最適な角度から叩き込まれる。


 これってあのゲームのまんまじゃん!……“ガチのCQB(近接格闘術)”!!


「ほう耐えたか……体は頑丈なようだな」


 隊長が冷笑する。


「だが、次は……関節は耐えられるか?」


 隊長の動きが変わった。


(この動き……サブミッションか!掴みにくる!?)


 ガチの軍人は、長々と打ち合ったりしない。

 素早く崩して、確実に相手を拘束——あるいは即死させる。


(サブミッションはやばい、さすがに詰むぞ……!?)


 ——いや、待て!


 こういう状況……俺は何度も経験してるじゃないか。


 ゲームの中で!!


 格闘ゲーム、ステルスゲーム、FPSのナイフ戦……


 俺は”画面越し”とはいえ、数え切れないほどの戦闘を経験してきた。


(相手がどう動くか……次に何をするか——全部、もう知ってる!!)


 そう意識した瞬間、隊長の動きが、俺の”ゲーム戦闘データ”と完全に一致した。


(来るぞ……! “組み技”と見せかけてからのテイクダウン、そして——!)


 隊長の腕が、俺の首を掴みにくる——


 その瞬間!


 俺は、わざと隊長の腕に自分の体を預けるようにし——


 一瞬、重心を消した。


「……何っ!?」


 隊長の腕が空を切る。


 その隙に、俺の足が隊長の足下へと滑り込む。


「小キック!からのー」

 コンボ「◯竜けーーーん!」


 地面を蹴り上げ上昇する俺の拳が、隊長の顎を撃ち抜く!!


 ——ドゴォォッ!!


「……ぐっあ!!?」


 そして隊長の体が大きく吹っ飛ぶ。


「な、何が起きた……!?」


 タイタンズの隊員たちが叫ぶ。


「た、隊長が……CQBで撃ち負けた!?」


 俺はゆっくりと着地しニヤリと笑った。


「貴様……格闘経験者か!?」

「……フッ、“経験”ってのは、現実だけのものじゃないぜ?」


 隊長が苦悶の表情で立ち上がる。


「……訓練された動きだけじゃない…… 何で学んできた……!?」


 俺は指をポキポキと鳴らし、ニヤリと笑う。


  「“1000時間の格ゲー”と、“2000時間のステルスゲーム”だ」


「え……なんて!?」


「俺は選ばれし者……『想像出来るものは、実現出来る』……だよなぁ白石アキラ」


 俺の言葉を聞いた白石は一瞬驚きつつも、ニヤリと笑って頷いた。


「だが、このスーツを破れぬ限り貴様に勝ちはない。今の技は見切った。二度目はないぞ」


 ダメージを感じさせず強気に叫ぶ隊長。


 その瞬間、俺の右手から漆黒の炎が燃え上がる——!


「おっと破壊の炎はなしだ!」


 そう言うと隊員は、白石の喉元にナイフを押し付けた。


 その瞬間——生徒会長・白石の周囲の時空が”歪んだ”。


「な……っ!? こ、これは……!?」


 隊員たちが混乱する。


「なぜ俺たちの手の中から……!!」


 彼らが捕らえていたはずの白石の姿が、“スッ”と消え去る。


「……お前たちは”現実”に縛られすぎている」


 俺は静かに呟く。


「相手を誰だと思っているのかしら」


 アマデルが屋上から微笑む。


「彼は”黒翼の使徒”なのよ」


 白石の身体は、すでに校舎の屋上、アマデルの隣に転移していた。


「こ、こんなバカな……!? いつの間に……!!」


 隊員たちは呆然とする。


「——これで俺は、遠慮なく戦えるってわけだ」


 隊長の顔が一瞬、険しくなる。


「……なるほどな、だからお前は最初から余裕だったのか」


「さあ、覚悟はいいか?……ヒーローといっても俺は、立ちはだかる敵には容赦しない“黒翼の使徒”だ」


 ていうか、そういう設定だ!


「なあ、ここの様子は本当に奴らから見えてないのか?」


「ああ、ドローンからはいつもと変わらない高校の風景が見えてるはずだ」


 すると隊長はドカリと地面に座り天を見上げた。


「分かった!俺の負けだ、もう好きにしろ」


「はあ?」


「試すようで悪かったな。あいつらより先にお前を確保したかったんだ」


 するとタイタンズの隊員達も隊長と同じように地面に座り込む。


「イマジナリー・ヒーロー……お前に、いや君に、会って欲しい人がいる」





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