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第八話「初めての冒険依頼、そして試練」

ギルド内の訓練場は、実戦さながらの雰囲気が漂っていた。


広々とした闘技場のような作りで、壁には数々の武器が並んでいる。

床には剣戟の跡が無数に刻まれ、これまで数えきれないほどの戦闘試験が行われてきたことを物語っていた。


私はゆっくりと訓練場の中央に進み、剣を手に取った。


「……いい剣ですわね」


訓練用の木剣とはいえ、しっかりとした造りをしている。

重さのバランスも悪くない。


私は剣を構えながら、周囲を見渡した。


ギルドの冒険者たちが、面白がるように訓練場の周囲へと集まっている。


「おいおい、本当にやるのか?」


「どんなもんか見せてもらおうじゃねぇか」


ざわめきが広がる中、一人の男がゆっくりと前に出た。


「では俺が相手をしよう」


先ほど、私を侮っていた筋骨隆々の男だった。


「お貴族様の腕前、試してやるよ」


彼は片手で訓練用の大剣を肩に担ぎながら、不敵に笑う。


私は静かに彼を見つめた。


確かに、並の冒険者よりは強そうですわね。


筋肉の付き方、立ち姿、動きの無駄のなさ。

彼が相応の実力を持つことは、一目で理解できた。


だが、それでも──


「……では、よろしくお願いいたしますわ」


私は優雅に一礼し、剣を構えた。


「お嬢ちゃん、悪いが手加減はしねぇぞ?」


「ええ、ご遠慮なく。私は手加減いたしますのでご安心くださいませ」


男はにやりと笑い、剣を振り上げた。


「言うじゃねぇか!じゃあ、行くぜ!」


その瞬間、男の姿が消えた。


──否、動いたのだ。


彼は瞬発力のある踏み込みで、一気に間合いを詰めてきた。


「はっ!」


鋭い斬撃が、私へと迫る。


だが──


「遅いですわね」


私は、最小限の動きでそれを回避した。


ほんのわずか、身体を横へとずらしただけ。

しかし、それだけで男の大剣は私の体をかすりもしなかった。


「なっ……!」


男の目が見開かれる。


その一瞬の隙を、私は見逃さない。


スキル発動──《剣聖》


私の身体が、自動的に最適解を導き出す。


──最短で相手の懐へと入り込み、最小の動きで攻撃を防ぎ、最速で反撃する。


私は流れるような動きで、男の腕を打ち払う。


「ぐっ……!」


衝撃でバランスを崩した男へ、さらに一歩踏み込む。


そして──


「失礼」


木剣の柄を、男の腹部へと突き立てる。


鈍い衝撃音が訓練場に響き渡る。


「ぐはっ……!」


男の巨体が、まるで紙切れのように吹き飛び、訓練場の壁にめり込んでいた。


──静寂。


ギルドの冒険者たちは、誰もが言葉を失っていた。


「……嘘、だろ?」


「あの筋肉ダルマが、一撃で……?」


「何が起きた……?」


私は、静かに剣を収めた。


そして、倒れ込んだ男へと歩み寄る。


「……お加減はいかがですか?」


「……ぐっ……ああ……」


男は苦しげに息を吐きながら、私を見上げた。


「お、お前……何者だ……?」


「私はただの冒険者希望の者ですわ」


私は微笑みながら、優雅に答えた。


「……貴族の令嬢が、こんな戦闘力を持ってるわけねぇ……」


男は苦笑しながら、ゆっくりと起き上がる。


そして、男は観衆へと視線を向け、


「おい、お前ら……こいつ、マジもんだぞ……!」


その言葉に、ギルドの冒険者たちがどよめいた。


「……まさか、ここまでとはな」


男は大きく息を吐き、私へと手を差し出す。


「悪かったな、お嬢ちゃん。俺が間違ってた」


私は、微笑みながらその手を取った。


「いえ、こちらこそ貴重な経験をさせていただきましたわ」


私は男の手を取りながら、内心でほっと息を吐く。


──これで、ようやく認められた。


ギルドの冒険者たちは、まだ信じられないといった様子で私を見ている。


「……リリアナ様」


受付嬢が歩み寄ってきた。


「これほどの実力をお持ちなら、冒険者としての適性は十分です」


「ありがとうございますわ」


私は、微笑みながら頷いた。


「では、正式に冒険者登録を完了いたしますね」


受付嬢が手続きを進め、私はついに──


正式な冒険者となった。


「これで、ようやく冒険者としてのスタートラインに立てましたわね」


訓練場にて私は一人呟いた。


貴族令嬢としての束縛から解き放たれ、新たな道を歩むことができる。


「さて──どんな依頼があるのかしら?」


私は、ギルドの掲示板へと目を向けた。


ここからが、本当の冒険の始まりである。

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