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第十一話「再会、そして新たな依頼へ」

 窓から差し込む朝日が、木製の天井に淡い光を映し出す。


 私はゆっくりと瞼を開け、柔らかな羽毛布団の感触を感じながら小さく息を吐いた。


「……んっ……」


 天蓋付きのベッドとは違う、少し硬めのマットレス。

 けれど、この小さな部屋には妙な安心感があった。


 私は身体を起こし、部屋の中を見回した。


 質素だが清潔感のある室内。

 木の家具に白いカーテン、シンプルな机と椅子。

 この世界に来て初めて過ごす“自由な朝”だ。


「ふふ……本当に、私冒険者になったんですのね」


 昨夜の出来事を思い返し、胸元に置かれた金貨の入った袋に触れる。

 金貨の重みは、これまでの貴族生活では決して得られなかった“自分の力”の証だった。


「さて、今日も頑張りますわよ!」


 私は布団を跳ね除けて立ち上がり、手早く着替えを済ませた。


 着るのはもう豪華なドレスではない。

 動きやすいブラウスにベスト、タイトなズボン。

 腰には愛用の剣をしっかりと帯びる。


「うん、これでよし!」


 鏡に映る自分を見て、満足げに頷く。

 優雅さは薄れたかもしれないけれど、この装いが今の私にはよく似合っている気がした。


---


 宿の階段を降り、食堂に立ち寄ると、朝食を取る冒険者たちの声が心地よく耳に入ってきた。


「お嬢ちゃん、もう出かけるのかい?」


 宿の女将が笑顔で声をかけてくる。


「ええ、今日は新しい依頼を探しにギルドへ行きますの」


「そうかい。あんた、昨日の噂で持ちきりだよ。フォレスト・グリズリーを一人で倒したって聞いて、みんな驚いてたよ」


「あら、そうですの?」


 私は笑みを浮かべて答えたが、心の中では少し驚いていた。


 昨日のことがもう街中に広まっているなんて。

 冒険者の世界では噂が広まるのが早いとは聞いていたけれど、これほどとは。


「でも、くれぐれも気をつけるんだよ。あんたみたいな新人が目立つと、妬む人も出てくるからね」


「ありがとうございますわ。でも、心配には及びませんの。私は自分の力を信じていますので」


 女将の心配に笑顔で答えると、私は朝食を手早く済ませて宿を後にした。


---


 街の通りは朝の活気に満ちていた。


 パン屋の甘い香りや果物売りの元気な掛け声が響き、行き交う人々の笑顔が溢れている。

 石畳を踏みしめながら歩くその足取りは、昨日までの私とは少し違う気がした。


(この街も、少しずつ馴染んできましたわね)


 貴族としての束縛を捨てた今、私はようやく自分の足で歩き始めたのだ。


---


 ギルドの扉を開けると、朝早くから依頼を求めて集まった冒険者たちの声が響いてきた。


「おはようございますわ皆様!」


 軽く挨拶をして中に入ると、いくつかの視線がこちらに集まる。


 昨日の戦果を知っているのだろうか、彼らの目には驚きと興味が混じっていたが、敵意を向ける者はいなかった。


(……昨日の一件で、少しは認めてもらえたようですわね)


 そう思いながら掲示板に目を向けた瞬間──


「あっ……!」


 小さな声が耳に届いた。言葉にもならないたった一言、聞き覚えのある声。


 私はその声に振り向き、そして思わず目を見開いた。


「ミレーヌ……?」


 そこに立っていたのは、見間違えるはずのない人物だった。


 公爵家で私に仕えていた専属メイド──ミレーヌ。


 彼女は驚きと喜びが入り混じった表情を浮かべ、そっと胸元に手を当てた。


「お、お嬢様……本当に、リリアナお嬢様なんですか……!?」


「ええ、そうですわ。でも、どうして貴女がここに?」


 私は思わず駆け寄ると、彼女の両肩に手を置いた。


「それは……」


 ミレーヌは少し困ったように視線を逸らしたが、やがて意を決したように口を開いた。


「私、お嬢様が家を出て行かれてから、どうしても心配で……それで、後を追ってこの街まで来たんです」


「まあ……!」


 私は一瞬、言葉を失った。


「でも、どうしてここだと?」


「お嬢様が冒険者になると仰っていたので、きっとこのギルドにいらっしゃると思って……」


「……そこまでして、私を探しに?」


「はい……」


 ミレーヌの瞳は真剣だった。


「私はこれからもお嬢様の側にお仕えしたいのです。もしご迷惑でなければ……これからも一緒にいさせていただけませんか?」


 その言葉に、私は思わず笑みを零した。


「迷惑だなんて、とんでもありませんわ。……ふふっ、心強い味方が増えましたわね!」


「お嬢様……!」


 目を潤ませるミレーヌの手をそっと握りしめると、私は再び掲示板に向き直った。


「さて。それでは、二人で今日最初の依頼を選びますわよ!」


「はい!」


 こうして私は、思わぬ再会によって新たな仲間を得たのだった。


しかし、ミレーヌはこの街でのリリアナの噂をまだ知らない──。

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