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第十四話「Aランク依頼への挑戦」

ギルドの朝は、活気に満ちていた。

冒険者たちの笑い声や酒の匂いが漂う中、私はいつものように掲示板の前に立っていた。


「さて、今日はついにAランクの依頼に挑みますわよ!」


掲示板に並ぶ依頼書の中で、ひときわ目を引く一枚に手を伸ばす。


【指定の魔獣討伐:ブラッド・グリフォン】

報酬金額:金貨300枚

難易度:Aランク

依頼内容:山岳地帯に現れる飛行型魔獣「ブラッド・グリフォン」の討伐


「お嬢様これってAランクの依頼ですが、本当に受けるおつもりですか?」


隣に立つミレーヌが、不安げに私を見つめている。


「ええ、もちろんですわ。Cランク、Bランクと順調にこなしてきましたもの。次はこのAランク──ブラッド・グリフォンに挑戦しない理由はありませんわ!」


その言葉に、ギルド内の冒険者たちがざわめき始めた。


「お、おい……あの嬢ちゃん、今度はAランクに挑むのか!?」


「フォレスト・グリズリー、ストーム・ウルフに続いて、今度はブラッド・グリフォンだと……?流石に無茶だ」


「もう笑えねぇな……あの子、本当に人間か?」


冒険者たちの視線が一斉に集まるが、私は気にせず受付に向かった。


「これをお願いしますわ!」


私は依頼書を机に叩きつけるように差し出すと、受付嬢は驚き……はしなかった。次の瞬間には笑みを浮かべた。


「リリアナ様なら、きっとこの依頼もこなされるでしょうね。ご武運をお祈りしております」


と、言葉通りの反応だった。


「ありがとうございますわ」


「それにしても……お嬢様は本当に凄いですよね!」


突然、ミレーヌが受付嬢に向かって声を上げた。


「え、ええ……本当に、これほどの方は滅多にいませんわ」


「お姉さんもそう思いますでしょう!? お嬢様はただの貴族令嬢なんかじゃありませんの!」


「ちょっとミレーヌ、落ち着きなさい。周りが驚いていますわよ?」


「あっ、すみませんお嬢様!」


顔を赤らめて頭を下げるミレーヌを見て、私は思わず笑みを零した。


「……さて、ミレーヌ。準備を整えたらすぐに出発ですわよ」


「はい、お嬢様!」


---


ギルドを出発し、私たちは目的地である山岳地帯を目指していた。

森を抜け、小川を越え、次第に道は険しくなっていく。


「ブラッド・グリフォンは飛行型の魔獣……地上戦とは勝手が違いますわね」


「はい、飛行と風魔法を駆使するため、攻撃を当てるのが難しいと聞きました。お嬢様、どうかお気をつけて……!」


「心配には及びませんわ。これまでの依頼だって、ちゃんとこなしてきましたもの」


そう言いながら、私は腰の剣にそっと手を添えた。


──その時だった。


「──来ましたわ!」


上空から響く、甲高い鳴き声。


「ギャアアアアアァァァッ!!」


風を切る羽音が耳に届き、私は空を仰いだ。


「……あれが、ブラッド・グリフォン……!」


山の頂を背に飛翔するその姿は、まるで血に染まったように赤く染まっていた。

猛禽類の鋭い眼光と獣の牙を備えた異形の存在。翼を広げれば、まるで空全体を覆うかのような威圧感を放っていた。


「お嬢様、あれはただの魔獣じゃありません……! こんなものを討伐するなんて、本当に……!」


「……大丈夫ですわ、ミレーヌ。これくらいは想定の範囲内です」


私は剣を抜き、静かに構える。


「さあ、来なさい──」


スキル発動──《剣聖》


視界が広がり、空気の動きすらも感じ取れる。


「ギャアアアアァァッ!!」


ブラッド・グリフォンが風を巻き起こしながら私に向かって急降下してくる。


「速いっ……!」


ミレーヌが思わず後ずさるが、私はその動きを見切っていた。


「いえ、遅いですわ……!」


瞬時に側転して回避し、飛び去る背中を追いながら地面を蹴る。


──跳躍。


重力を無視するかのように高く飛び上がり、空を裂く勢いで剣を振り下ろした。


「斬界・壱式!」


刃が赤い羽毛を裂き、鮮血が空に舞う。


「ギャアアアァァッ!!」


悲鳴を上げてバランスを崩すグリフォン。だが、その目にはまだ闘志が宿っていた。まだ終わりではないと。


「くっ……さすがAランク!しぶといですわね!」


風を纏った翼が私を吹き飛ばそうとするが──


「武神──発動!!」


全身に力がみなぎり、体が軽くなる。私の筋肉量が増えるのを感じ取れる。


「これで、終わりですわあああああっ!!」


剣を掲げ、空を裂いて突進する。


「──斬界・終式!! 」


一閃。


刃が獣の喉を断ち切り、血飛沫と共にブラッド・グリフォンが地面へと墜落した。


「ドォォォォォンッ!!」


地響きと共に、森が静寂に包まれる。


「……ふうl、終わりましたわね。流石に少し手間取りましたわ」


私は深く息を吐き、剣を収めた。


「お、お嬢様……!すごいです、あのAランクの魔獣を……!」


ミレーヌが駆け寄り、感極まった表情で私の手を取った。


「これで、Aランクも達成ですわね」


私は微笑み、ブラッド・グリフォンの羽根を討伐の証として切り取った。


---


ギルドに戻ると、再び冒険者たちの視線が私に集まった。


「今度はAランクだと……!?」


「嘘だろ……まだ冒険者になって間もないのに……」


「いや、もうこれは笑えねぇ……この子、どこまで行くつもりだ……?」


その視線は、もはやただの驚きではなかった。

尊敬と羨望。まるで勇者の帰還でも見るような眼差しだった。


「お帰りなさいませ、リリアナ様」


受付嬢が笑顔で迎え、討伐証明の羽根を確認する。


「確かに、ブラッド・グリフォンのものですね。これで依頼は完了となります」


「ありがとうございますわ」


報酬の金貨を受け取り、私は小さく頷いた。


「お、お嬢様……本当にすごいです!私、もう感激で言葉が出ません……!」


「それはよかったですわ、ミレーヌ。でも、これはまだ始まりに過ぎませんでしてよ?」


「「え……?」」


受付嬢とミレーヌの声が重る。


「この街で名前を知られるのは、冒険者としての第一歩に過ぎませんわ。次は……もっと上を目指しますの」


冒険者として、私はさらに名を轟かせていく。貴族令嬢として縛られない為にはまだまだこれじゃ足りない。

今はまだせいぜい”凄腕の冒険者”くらいでしょう。


「私は貴族令嬢という肩書きを完全に取り払いたいのですわ。その為にはこんなものじゃ足りませんの!」


私の言葉にギルドにいる者達全員の開いた口が塞がらない。


だが、それを“良く思わない者”が、再び動き始めていることを私はまだ知らなかった。


---


「フン……あの女め、またしても……クソッ」


王宮の一室で、アレクシス・フォン・ルクセリアは報告書を握り締め、苛立ちを隠せずにいた。


「アレクシス様、どうかお気を鎮めてくださいませ」


執事のアルフォードが静かに進み出る。


「黙れ、アルフォード! あの女がさらに名を上げれば、この国の秩序が乱れるのだ!それを分かっているのか!……だが、私には策がある。今度こそ、必ずリリアナ・フォン・エルフェルトを手に入れてみせる」


「……では、その方法とは?」


「フフフ……楽しみにしているがいい。次に彼女が冒険に出る時こそ──」


王太子の笑みは、もはや純粋な愛情ではなかった。


その手は、すでに“次の一手”へと動き出していた。  

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