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「叶さん、あなたクビよ」
「え……なぜですか?」
「以前言ったでしょう。次はないって」
「確かに言っていましたけど、でもっ!わたしは何も──」
わたしはずっと、この会社のために頑張ってきた。
ブラック企業と分かっていても、負けず嫌いだったわたしは成果を出して、同僚達を見返したかった。
そんなわたしの言葉は勿論届く事はなく──
「あなた、会社のお金を横領したそうね」
「…………え?」
わたしの頭が、真っ白になる。
「証拠も上がってるのよ」
社長は一枚の写真を突き出してきた。
「これって……」
そこに写っていたのは──わたしになりすました誰かだった。
違う、わたしじゃない。誰……?
「ちょっと待って下さいっ!わたしじゃありません、社長!!」
「どこからどう見てもあなたでしょう」
写真には、わたしがいつも着用している服やカバン。そして、どういうわけかそこに写っていたのは、間違いなく"わたしの顔"だった。
「そんな……社長!わたしはやっていません!本当です!今まで社長の言う通りやってきました!成果も上げて信じて──」
と、言いかけた所でわたしはその先の言葉を言わなかった。
社長の目がもうわたしを犯人と決めつけている。
あぁ、そうか。そういうことか。
わたしが成果を上げることで、妬む者がいた。それだけの話だったんだ。
今の時代、写真に映る顔を加工するなんて、難しいことじゃない。
それも、夜に撮られていて暗くてはっきりと写っていない。これなら誰がどうみてもわたしが犯人と言って当然だ。
理解した途端、身体がなんだか軽くなった気がした。
「……分かりました。社長、今までお世話になりました」
「……ごめんなさいね」
なぜ謝る。なぜ止めない。なぜ信じてくれない。
わたしが社長室から出ると、周りから笑い声が聞こえてきた。
やっとあいつが辞めてくれた。そんな声だ。
(……ハメられた)
結局、どれだけ頑張っても、わたしに待っているのは──バッドエンドだけ。
◆◆◆
意識が戻る。
視界が揺れながらも、目の前にある"絶望"は変わらない。
ミレーヌが──撃たれた。
「──まだだっ!まだ諦めるには早いっ!」
誰かの声が響く。すぐそばから。
(アスフィさん……?)
「無駄だっ!僕は心臓を撃ち抜いたんだ!つまり、もう──」
「それはそこらのヒーラーの話だったら、の話だろう。残念ながら僕は
「は……?何を言って──」
アスフィが、何かを唱え始める。
耳にしたことのない言語。まるで、この世界の"理"から外れたような響き。
「……これで状況は完全にリセット。さて、再戦といきましょうか、悪徳お貴族様」
「……ハッまさか治したとでも言うつもりか?僕は確実に心臓を撃ちぬいた。僕の銃の腕は父上のお墨付きだ。ヒーラーというものは傷は癒せても死者を生き返らせることは不可能だ」
(……アレクシスの言う通りだ。死者を救うなんて、不可能)
だが、アスフィは静かに言った。
「言ったでしょう、僕をそこらのヒーラーと同じにしないで欲しい……リリアナ、今は前を向く時です。彼女はまだ生きている。僕の言葉が信じられないのなら、自分の目で確かめるのが一番早い」
──生きている?
リリアナは、アスフィの言葉を聞き、恐る恐るミレーヌへと視線を向ける。
わたしの視界に映ったのは──
「ミレー……ヌ……?」
ベッドに横たわったままだったはずの彼女が、何事もなかったようにゆっくりと起き上がって、こちらを見つめていた。
「バ、バカなっ!!!?ありえない!!ありえないだろ!!??なんなんだお前はああああああっ!!」
アレクシスの悲鳴のような叫びが響く。
だが、事態はまだ終わらない。
「アルフォォォォォォォォォォォドッ!!!」
突然、アレクシスが吠えた。
──その瞬間。
窓が粉々に砕け、黒い影が侵入してくる。
「ここに」
黒い燕尾服を纏い、白髪を背に流した老人。
静かな佇まい。しかし、彼の身体から漂う気配は圧倒的で、まるでそこに存在するだけで周囲を支配するような威圧感。
誰が見ても、只者ではないと理解できるほどの"強さ"を持つ男。
「申し遅れました。私の名は、アルフォード。主、アレクシス様の名により馳参じました」
(強い……今まで戦ったどの魔獣よりも……わたしが手に掛けたあの男よりも)
その場の空気が、極限まで張り詰める。
そして──。
今度は、背後の扉が"蹴り破られた"。
「──遅くなってしまい申し訳ありません、お嬢様」
まるで白馬の王子のような登場。
だが、その声の主は──。
「ユウ……?」
銀髪の青年、ユウだった。
彼は静かに微笑みながら、リリアナを見つめると、
「助けに来ましたよ、お嬢様」
──決戦の幕は、今まさに上がったのだった。