VTuber七色みどりの壮絶な過去。
七色みどりの正体が数ヶ月前に姿を消した声優の夏樹翠であるという衝撃は波紋を呼び、SNSに拡散もされていた。
噂を聞き付けた新規リスナーが続々とみどりの配信に押しかけ、今までとは桁違いの同接数になっていた。
『噂を聞きつけ参上』
『みどりニキ 今SNSのトレンドワードに上がっているよ』
「マジか! みんな来てくれてありがとう! そしてどうか最後まで居てください!」
『言われてみれば夏樹翠の声だわ』
『そういえばこんな声だった気がするな』
『幼女Cちゃんの声やって~』
「お兄ちゃん達。チャンネル登録してくれないと……泣いちゃうんだからねっ!」
『大草原』
『相変わらずみどりニキの幼女声は胎教にいいな』
『でももう二度としないで』
「好評なのか不評なのか!」
新規リスナーが続々と現れ出したので、翠斗は過去話を一旦ストップし、小休憩タイムを設けていた。
その際に声真似リクエストとかも受け付けリスナー達を楽しませている。
でも翠斗も少しだけ疲れを見せ始めていた。
ここからが本題だというのに思いのほか過去話が長くなってしまったことは翠斗にとっても誤算だった。
「みどりさんもちょっと休んで。はい。冷たいお茶だよ」
「わわっ。ありがとうささえさん!」
『誰や?』
『同棲中のみどりニキの嫁』
「同棲しているわけじゃないって! 壁に大穴が空いているだけだから!」
『ファッ!?』
『どういうことやねん……』
『それは同棲と何が違うん』
新規リスナーは当然ささえの存在を知らない。
簡易的に語られた二人の関係性を聞いてもピンと来ていない様子だ。
『詳しくはこの七色みどりwikiを見てくれや ⇒(httq://kabekabev/n0123)』
『ここまでの話のまとめもどうぞ ⇒(httq://anaanav/i210)』
「キミら有能書記過ぎない!?」
『後で切り抜き動画もうpするわ』
「古参リスナーが頼もし過ぎる件!」
リスナーに賞賛のツッコミを入れながら、翠斗はチラッとチャンネル登録数を確認する。
この配信前は360人だったのに対し、851人にまで増えている。
今日1日での増え方としては凄まじい伸び方だ。だけど……
「(まだまだ足りない……)」
とある目的の為、翠斗にはチャンネル登録者数の伸長が必須だった。
目標としている数値には全然届いていない。
ポンっ
「??」
不意に頭の上に柔らかい感触が伝う。
視線を移してみると、ささえが小さく微笑みながら翠斗の頭を撫でていた。
「え、えっと、ありがとうささえさん」
「……みどりさんの過去がそんなにつらいものだったなんて思いもしなかった。声優に対してツライ思い出しかないかもしれないのに、私ったら軽い気持ちで声優に誘っちゃったりして……」
「…………」
ポン
「~~っ!」
俯いてしまったささえさんに対し、俺は彼女がしてくれたように頭を小さく撫で返していた。
普段から良く手入れされていることが伺えるサラサラで良い香りがする髪。
撫でられているささえさんは気持ち良さそうにしているが、撫でている俺も気分が落ち着いていた。
「確かに俺は現役時代あまり良い事がなかった。声優としての芽が出ないだけでなく、中年ディレクターに陥れられて、仲間からも追放されて……正直ツライ思い出の方が多い」
「…………」
「でも、さ。やっぱり俺は声優になりたいという夢は捨てきれていなかったみたいだ。諦めるしかないと思っていた俺に再び光を照らしてくれたのはキミだ。夏樹翠はダメダメだったけど、七色みどりとして俺は絶対に声の仕事で成り上がってみせる」
「……うん。一緒にね」
「ああ。一緒にだ」
ニコッと互いに微笑みながら誓い合う。
今度こそ声優として輝ける未来を。
二人一緒に。
『えーと……あのー……』
『なんでこいつら配信でラブコメしてんの?』
『↑同じコメント以前にもあったなww』
『あまーーーーい!!』
『激重過去話で脳が疲れていたから糖分補給助かるわ』
「うわあああああ! ミュートにしてなかったぁぁぁ!」
『草』
『みどりニキってたまにポンコツになるよな』
『脳が破壊されますわああああああああああぁぁぁぁぁ!』
『↑レインちゃんおちついて』
『↑変なのが取り乱してるw』
『↑レ黙』
『天の川レインについてのwikiはこちら⇒((httq://kabeanaV00/f101))』
翠斗はお茶を飲みながらホッと一息つく。
身体も少し休まった。
「(時間は少し押しているな。巻きにしないと)」」
タイムスケジュールは押している。
過去の話に避ける時間はあと15分くらいか。
「さて、そろそろ話の続きを再開する。半年くらい前、とある暴露系VTuberが話題になったのは覚えているか?」