「5……」
謎のVTuberの配信開始が秒読みになり、カウントダウンが始まる。
「4……」
結局このVTuberが何者なのか、誰も分かっていない。
事務所所属のタレントではないのか、何かの番組宣伝に為に作られたキャラなのではないのか。
「3……」
だけど、一番多くの推測として飛び交っていたのが、このVTuberというのは『夏樹翠』ではないのか、という予想だった。
「2……」
春子、千秋、冬康の3人に繋がりが深く、尚且つ夏樹だけがSNSで拡散希望呟きを行っていなかったことがそのような推測を生み出した。
「1……」
だけど視聴者は思い知ることになる。
この配信に置いて重要なのは謎のVTuberが誰かということでない——
「0!!」
重要だったのは極秘情報と称された配信内容の方であるということに。
「「「「正義の鉄槌を今ここに! 暴露系VTuberグループ『四季』です」」」」
『キター!!』
『ファっ!? 4人!?』
『いっぱいいるwww』
『まさかのグループ』
『思ってたより陽の空気でおじさん困惑』
「みんな! 今日は私達のデビュー配信に来てくれてありがとう~!」
『いえいえ』
『この子の声可愛い』
『声優?』
『明らかにプロっぽい雰囲気ある。くっそ好みな声』
『でもなんでガワが映ってないんだ? Vちゃうんか?』
暴露系VTuber『四季』
リスナーの配信には煌びやかな背景だけ映し出されており、肝心の4人のキャラクターが表示されていなかった。
だけど画面の四隅にキャラクターシルエットらしいものが存在している。
「まずは自己紹介をしていきます。では私から」
画面右下のキャラクターシルエットにパッと色が付き、女の子キャラクターが映し出される。
「初めまして。私はモミジって言います。よろしくお願い致します」
『ざっっつwww』
『高校生のイラストかな?』
『手にマイク持っとるww』
『ガワが落書きレベルwwww』
『でも雰囲気は可愛いな』
もったいぶった演出のわりに稚拙なイラストが登場し、リスナーが困惑する。
「ちなみにこのキャラクターは私が描きました」
『主の手描きかよw』
『ちゃんとイラストレーターに描いてもらいな?』
『よくそのガワでV始めようと思ったなw』
「次は僕だ。名前はツバキ。ちなみに僕も自分で描きました。さあ見てくれ!」
『wwwww』
『中学生のイラストかな?』
『鼻がwwwwないwwww』
『モミジたんのイラストがマシに見えるレベル』
『キャラ絵で笑わせにくるの卑怯www』
「次は私。サクラって言います。私も自分で描いたのですが、前の二人よりは上手だよ! どうぞー!」
『ひっどwwwwww』
『小学生低学年の子の方がまだ上手に描けるわw』
『絵下手コンテストかな?』
『イラストだけだと男なのか女のかすらわからん』
『モミジたんって……絵が上手かったんだな……』
「最後に自分ですね。夏男って言います。俺は前の3人よりもちょっと時間を掛けて描いたから自信あります。どうぞ!」
『wwwww』
『幼稚園からやり直せwww』
『ていうか名前www』
『コイツだけ毛色違うの草』
『モミジ、ツバキ、サクラときて、どうして最後に「夏男」なんだよwww』
『夏の花っぽい名前なんかあっただろww』
季節を準えてそれぞれの時期に咲く花の名前を名乗っていたのに夏だけは違った。
それは夏だけがこのグループに溶け込めていないことを示唆しているのかもしれない。
暴露系VTuberグループ『四季』。
お察しの通り、千秋、冬康、春子、翠斗の4人が中の人を担っている。
リスナーに正体がバレないよう各々が声色を変えながら。
「さてさて、自己紹介はこれくらいにして早速本題に入らせてもらおうかな」
夏男が強引に話を区切り、会話の舵を切る。
「私達の大切なお友達から極秘情報を受け取ったの」
「僕達はこれを聞いて許せない気持ちになった」
「今日、この情報を暴露する為に四季は発足されました」
サクラ、ツバキ、モミジが真剣な声色で順番に話す。
自己紹介の時の陽気な空気とは一転。
シリアスな雰囲気が生配信の空気を染めていた。
「皆、アニメ映画監督の井内って人知っているか? その人に関する情報を暴露させてもらう」
『誰や?』
『アニメ映画ヒット連発男』
『転生バトルオンラインの劇場版やエイスインバースの劇場版を手掛けた大物監督』
『名前だけは聞いたことあるかも』
業界内では有名人でも一般層にとって映画監督に関する興味など微々たるものである。
どんなに面白い作品を手掛けてもまず賞賛されるのは作画や声優であることが多く、監督の存在など二の次なものである。
だけどさすが井内監督というべきか、一般層にもある程度知れ渡っているようだった。
「これは井内監督ととある声優の電話音声です。その時の音声データをここで暴露しようと思う。まずは……聞いてみてほしい」
夏男の言葉と共に、一度煌びやかなサムネイル画像はフェードアウトし、配信画面は真っ黒になる。
やがて、録音データがゆっくりと再生された。
『ひっで!』
『クソ爺』
『春子ちゃん可哀想』
『これマジな話?』
『セクハラどころの話じゃねーぞ』
『大スクープレベルの事件性なんだが』
『俺の春子ちゃんにセクハラを迫ったくそジジイ……許さん!』
『春子ちゃん大丈夫だよね? この後じじいに嫌がらせ受けて居たりしないよな!?』
録画データを聞き終えたリスナーが井内に対して憤りをぶつけている。
同時に春子を心配するファンの姿もあった。
「春子ちゃんのことなら心配しないで大丈夫。井内監督とはこの電話を最後にコンタクト取っていないみたいだから」
「でも、春子ちゃんは怖がっていた。自分で暴露してしまったら井内に逆恨みされるかもしれないし、事務所にも迷惑をかけてしまうかもしれないって」
「だから友達の自分達が代わりに暴露を勤めたんだ」
「なにせ『謎のVTuber』だからね。逆恨みできるものならやってみろって感じだよ」
『よくやった!』
『春子ちゃん ええ友達もってるやん』
『暴露系ってイメージ悪かったけど印象変わったわ』
『井内をぶっ叩くのは俺らに任せろ』
『とりあえず拡散しとく』
『じじいに正義の鉄槌を』
四季の思惑通り、憤りを覚えたリスナー達が早くも行動を起こしてくれている。
すでに暴露内容の拡散は始まっていた。
『でもここで井内をぶっつぶしたら最新作みられなくなるのか』
『作品には罪はないとはいえ少し悲しいかもな』
リスナーのコメントに翠斗達はハッとさせられた。
翠斗達は井内や忠文と戦うことばかり考えていたので、井内の手掛けた作品にまで迷惑をかけてしまうことまで頭が回っていなかった。
「井内監督ファンの方や作品のファンの方は本当に申し訳ない。でもここで暴露しないといけないと思ったんだ」
『ええんやで』
『このじじいをこのまま放置する方が悪や』
『じじいのファンなんておらんやろw』
『まずは何も考えずにじいさんをぶっつぶすんや』
『お前らは春子ちゃんを守ったんや 誇れ』
『これからも守ってやってくれ』
「それはもちろん。春子——春子ちゃんは全力で俺が守る!」
「~~~~っ!」
夏男の力強い言葉に桜の中の人はボッと顔を赤くする。
その羞恥の呻き声をマイクが拾ってしまい、リスナーの頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
声には出さないが千秋と冬康はニヤニヤとその光景を眺めていた。
「ああ、そうそう。明日も同じ時間に皆で集まってほしいんだ」
「別口でもう1件暴露したいことがあるんです。私達的にはそっちの方が重要なんです」
「井内監督の件は言わば前座なんだ。明日はラスボスの暴露するんでよろしく」
『ま?』
『井内の件だけでも衝撃だったのだがまだなんかあるんか』
『こいつらの情報網ぱねぇな』
『予約視聴不可避』
『おまえらのファンになったわ チャンネル登録しといた』
『明日までにガワの絵を手直ししておけよw』
「それでは今日はこの辺で、暴露系VTuberグループ『四季』をこれからもよろしくお願いします!」