暴露系Tuber『四季』の生配信終了後、SNSでは祭りになっていた。
トップトレンドワードに『井内』、『暴露』、『四季』、『羽嶋春子』が上がっていた。
井内監督は春子以外にも裏接待を持ち掛けたことがあるらしく、被害者が匿名で次々と事実を明かす騒ぎになっている。
『最低』
『ゴミ過ぎる』
『こいつの映画二度と見ない』
『このジジイ 昔からずっとこんなことしていたらしいぞ』
『業界追放だろこんなの』
『春子ちゃんにまで手を出そうとしたの許せん』
『未遂で終わったのが救い 謎のVTuberナイス暴露だ』
『ていうか逮捕案件やないの?』
『こいつのゲス会話の動画 四季のチャンネルに上がってるぞ』
『見てきた 吐き気を催す邪悪とはコイツのこと』
『カッチーン』
『何が「女声優風情」だ 声優を舐めんな そして声優オタを舐めんな』
『二度とまともに日の光を拝めないほど叩きまくってやる』
ネットは荒れに荒れていた。
井内本人がこの事態を把握したのは翌日のことであった。
マスコミが井内の元へ押しかけたのだ。
「井内監督! 若手声優に裏接待を持ち掛けたという噂は本当なのでしょうか!?」
「な、なんだ、貴様らは!? 何を言っている! 勝手に入ってきていいと思っているのか!? 入室許可は取ったのか!?」
「井内監督! 真相のほどを話してください!」
「井内さん! オファーを理由に肉体関係を求めたという噂が広まっているんですよ! 何か一言お願いします!」
「貴方は映画ファンも裏切る行為をしたんですよ! そのことについてはどうお考えなんですか!?」
井内の元へ次々とマスコミが押し寄せてくる。
押し寄せるマスコミの大波に井内はアッサリと飲みこまれてしまった。
何が起こっているのか分からない井内は半パニック状態に陥る。
「く、くそっ! 春子か! あいつマスコミにチクりやがったな……!」
「春子? 羽嶋春子さんのことですか!? つまり羽嶋さんへの裏接待は事実であると認めるという発言と見てよろしいわけですね!?」
「しまっ——! ち、違う! わしは羽嶋春子とは何の関わりなどもってはいない!」
「今、『春子か』と仰ったじゃないですか! 言い逃れできるとでも思っているのですか!?」
「『マスコミにチクりやがったな』とも言いましたよね!? つまりマスコミに知られるとまずいことを行っていたということですね!?」
「ち、ちが——くそっ! 話す! 話すから! これ以上圧迫しないでくれぇぇ!」
「……むごいな」
今まさに井内が失脚する様子が映し出されており、小林忠文はテレビの前で戦慄していた。
井内の時代は今日この時を持って終焉を迎えることだろう。
ここまでは忠文の計画通りだ。
計画通りなのだがその表情には全く余裕が感じられない。
むしろ恐怖で慄いているようだった。
「(あのVTuber共は今日もう1件暴露をすると言っていた。嫌な予感がする)」
VTuber達は大物のネタを持っていると言っていた。
それはもしかしたら自分に関するネタなのではないだろうかという懸念が深まる。
もしそうならば何としても阻止しなければいけないのだが、相手は素性も知れぬ謎の存在。
接触したくてもできないもどかしさが忠文を襲う。
「くそっ! 誰なんだあのVTuber共は! 四季とかいったか!? ……四季?」
四季……四つの季節……
サクラ、モミジ、ツバキ……
四つの季節に咲く花……春夏秋冬……
「……!! もしかしたら!!」
春子達は第三者へ情報を譲渡するフリをして、自分達で吐露していたのではないだろうか。
春子達とは違う声色のVTuberであったが彼女らは声優だ。多種の声を持っている。
「そうか! そうに違いない!」
四季の正体は夏樹翠を含めた春夏秋冬だ。
それが分かれば抗いようはある。
忠文は車のキーを引っ掴むと、身支度も整えず、飛び出すように事実から出ていった。
「大人を舐めるなよ。若造共が!」