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第66話 配信コラボⅥー② 祭りは始まった (七色みどり×四季)

 暴露系VTuber『四季』

 かつてSNSを賑わせた伝説のVTuberはとある偉業を成し遂げていた。

 チャンネル登録者数2万人。

 デビュー配信終了の段階でそれだけの人数を魅了したのだ。


「四季がそれだけ数字を集められたのって3人がSNSで宣伝をしてくれたからだ。みんなの影響力は本物だ。だからその集客力を俺の為に使ってほしい。とにかく人を集めまくってほしい。お願い……していいか?」


 傲慢で自分勝手な翠斗のお願い。

 だけどこの場には『何様だお前』と罵るものなど一人もいない。

 それどころか、皆の想いは一つ。

 七色みどりの願いを叶えてあげたい。

 夏樹翠の願いを叶えてあげたい。



「「「もちろん!!」」」







 羽嶋春子 @haruko-h-haruharu . 1分

【緊急拡散希望希望希望希望】

 突然の告知申し訳ありません

 ファンの皆様、お願いします

 今すぐこの配信に足を運んでください。

 羽嶋春子も今ゲスト出演しております

 そして私の仲間を助けてあげてください。

 彼はチャンネル登録者数3万を今日中に達成させないといけません。

 羽嶋春子の一生のお願いです。

 私の仲間にどうか力を貸してください!

 七色みどり生配信リンク(htto://kabeanaVT.cc.jp)




 如月冬康 @huyuyassan . 1分

【緊急】【拡散希望】

 皆様にお願いがございます。

 僕の一番の仲間が協力を欲しております。

 僕はどうしても助けてあげたい。

 なんとしても彼に報われてほしい

 1人でも多くの仲間に、友達に、家族に

 この場へ足を運んでほしい

 僕もこの場にいます。

 絶対に来てください!

 七色みどり生配信リンク(htto://kabeanaVT.cc.jp)




 佐伯千秋 @saeki-chiaking .1分

【大拡散希望】

 お願い

 私の仲間を助けてあげて

 お願いします!

 お願いします!!

 誰よりも頑張ってきたのに報われなかった人がいます

 そんなの絶対に間違っている

 彼は今日報われなければいけないんです!

 だから……お願いします!

 力を貸してください!

 私もここにいます。だからみんなも来て!

 七色みどり生配信リンク(htto://kabeanaVT.cc.jp)




  『うぉぉぉぉ!』

  『増える増える増える! 湯水のように登録者数が増えるぅぅぅ!』

  『たのむぅぅ! この場にいる人全員チャンネル登録ボタンを押してくれぇぇ!』

  『お前らグッドボタンも押せ!』

  『wiki更新した 主がどうしてチャンネル登録者数を欲しているのか知らない人は読んでくれ ちな拡散希望』

  『同接数えげつねえwww』

  『3万人達成したらガチでニュースになるぞ』

  『↑俺らがニュースにするんだよ』

  『おいあっさり1万人突破したぞ!』



 春子のファンが、千秋のファンが、冬康のファンが。春夏秋冬のファンが。

 みんなが七色みどりの生配信にきてくれた。

 みどりは人が増える度にお礼をし、チャンネル登録をお願いする。

 春子達も懇願するようにお願いし、援護する。


 とあるVTuberの生配信に超人気声優達が集結している。

 しかもそのVTuberの正体はかつて声優だった夏樹翠。

 伝説の声優ユニット春夏秋冬が生配信をしているという情報だけで声優ファンの間で瞬く間に祭りとなった。

 更に、かつてSNSを騒がせた四季の正体が春子達自身であったことはファンを驚かせ、夏樹翠に壮絶な過去があったことは多くの同情を呼んだ。

 七色みどりの生配信は多くのミラー配信枠も立っている。

 急に人数が集まりすぎると配信が重くなってしまうのでチャンネル登録が終わった人はミラーの方へ移動する。

 翠斗達がお願いしたわけではない。

 ファンたちが自分達で考え、自分達で配慮をしてくれたのだ。

 全てはスムーズにチャンネル登録者数を増やすために。







「ふはははは。面白い! 面白いぞ! 七色みどり!」


 朝霧絵里奈は事務所の個室で七色みどりの配信を拝見していた。

 心の底から愉快そうに大笑いをしているが、その視線は慈愛に満ちていた。

 子供の成長を喜ぶ母親のような心境。


 彼と初めて会った面接の日を思い出す。



 ——『キミはどうして『VTuber』になりたいのだ?』



 あの面接で絵里奈は翠斗にそう尋ねた。

 配信でお金を稼ぐなら別に『V』にこだわる必要なんてない。

 VTuberであらねばならない理由が何かあるのか。そんな興味本位の質問。


「俺の好きな人がVTuberだからです」


「はっ?」


「良いリスナーに恵まれて、配信することがとにかく楽しくて、みんなの居場所の中心に自分が居ることが嬉しいと言っておりました。その空間をたった一人で作り上げた彼女がめちゃくちゃ眩しかった。憧れた。俺も同じようになりたいと思いました。それに同じことができないと彼女に釣り合わないと思ったからです」


「ふむ。不純だが純情な理由だな」


「面接での受け答えとしては不合格かもしれませんね。でも俺は正直に答えたかった」


「いや、私好みの答えさ。キミは面白い」




「……ふふ。キミだって出来ているじゃないか」


 良いリスナーに恵まれている。

 楽しそうに仲間とコラボをしている。

 そしてこの祭りの中心に夏川翠斗が存在している。

 何より、応援したくなるような人柄をしている。

 配信者としてそれがどれだけ貴重なことか絵里奈は知っていた。


「おっと。忘れないうちにチャンネル登録をしておかねばな」


 七色みどりのチャンネル登録者数カウンターが1つ回る。

 現在の登録者数:10,713人







 天の川レインは緊急生配信枠を立ち上げていた。

 いつものオープニング口上は全てカット。

 用件だけを率直にリスナーへ伝える。



「皆さん! お願いします! どうか力を……力を貸してください!」



 『わかってる』

 『みどりニキのチャンネル登録やな』

 『もう拡散してるぞ』

 『とっくの昔にチャンネル登録は済ませてある、俺にできること何かないのか?』

 『↑家族や友達全員にチャンネル登録するようにお願いしてこい。それが終わったらSNSで宣伝と拡散な』



「み、皆さん……! ありがとうございます!」



 『でもいいのか? たぶんみどりニキが好きな人というのは……』



「ええ。ワタクシではないことくらい承知です。承知の上でお願いしております。お願いです。翠様の願いを——私の『仲間』の願いを叶えてあげてください!」



 『レイン……』

 『お前はいい女だよ』

 『レインの覚悟受け取った チャンネル登録者数到達は俺たちに任せておけ』

 『絶対達成させような』

 『お前ら 雨宿り隊の維持の見せどころだぞ!』



 天の川レインは夏川翠斗に恋をしている。

 いや、その表現は正しくないのかもしれない。

 天の川レインは夏樹翠・・・に恋をしていた。

 声優だった頃の彼に恋をして、彼を追いかけて、彼に憧れている。

 でも翠斗の過去話を聞いて、もう自分が恋焦がれていた夏樹翠は終わってしまったのだと、もういなくなってしまったのだと理解した。

 だから隣の部屋にいるのは七色みどりという大切なVTuber仲間。

 大切な仲間には報われてほしい。仲間だから応援したい。

 レインを突き動かしているのは純粋な応援の気持ちだった。



「さあ! みどり様を支援いたしますわよ! まさか雨宿り隊の中にチャンネル登録がまだな方なんて存在しませんわよね!?」



 七色みどりのチャンネル登録者数カウンターの上昇は進む。

 現在の登録者数:14,820人


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