花木が振りかぶり、上川への第二球。ボール――カーヴは大きく
上川はさっきと同じく、ピッチャーを見て構えたまま。球審のボール判定を聞くと、打席を
第三球。ボール――
今度はしっかり目でボールを追った上川。
監督は「ギリギリ外れたのか、ね」と呟いた。
第四球。ストライク――さっきと同じところへのストレイト。
それも目で追った上川。いまだ一度もバットを振っていない。
カウントは2ボール、2ストライク。
「ギリギリで入ったかぁ」と監督は言った。顧問がそれに反応した。「速くてびっくりしたでしょうか、上川……」
「いや、ね」監督はシッシと右手で
第五球。また外角高めのストレイト。打った――サードゴロ。打球はサード正面へ。一塁へゆとりをもって
走り抜けた上川は打ち取られたとは思っていないのか、いつもの丸い表情。
1アウト、ランナーなし。
大甕の2番・キースがネクスト・バッタースサークルから右打席へ向かう。戻って来る上川と何やら
花木はキースがバットを構えると、振りかぶった。第一球。ボール――カーヴが低く外れた。
キースはピッチャーを見たまま。
上川がベンチに戻った。
「上川、いーよー」
それをよそに、上川はベンチの全員に向け「ちょっと分かりづらいかな、みんなには――」と、やんわり
花木がキースへ第二球。ボール――ストレイトが外角低めに外れた。
キースは同じようにピッチャーを見たまま。
カウントは、2ボール。
「カサリンには簡単に見分けがつくと思う」と、川上はマウンドを見ながら言った。
第三球。打った――ファウル。速い
2ボール、1ストライク。
「次の
第四球。ストライク――
キースはそれを見送ったが、球をよける小さな動作はあったものの一歩も動かなかった。
2ボール、2ストライク。
「――肩をすくませるように投げると、ストレイトかな」と上川。
一年生の
顧問は「はあ……」と
第五球。ボール――大きく曲がったカーヴがワンバウンド。狩野はそれを
3ボール、2ストライク。フルカウントになった。
「少しだけ腕を出すタイミング、カーヴのとき早くない?――ねえ?」上川はメンバーの反応を
「ほ、ほお……なるほど」顧問は
他の者も明らかに納得はできていない。
「打席から正面で見てみないと」と
その後ろから、キャッチャーの
そのさなか
キース、
ネクストバッタース・サークルに立つ日比は口笛
2アウト。ランナーなし。
代田は何となく〝がんばれ〟的なことをキースから言われたような気になっていた。そして、右打席の手前で
「はぁ――? なにあれ、スコーンって……」
3アウト。攻守交代。
急なチェインヂを告げられ、ベンチは慌ただしくなった。
その中でひそひそ話すのは、嶋と上川。
「あれだと、なんか言ったな?」と上川。
「カサリンが?」嶋はグローブを差し出した。
「たぶんだけど――お、ありがとう、
上川は他にも何かを言いながら走って行った。その顔は、にこにこしていた。
代田は、打席から出てヘルメットを脱いでいた。そこに一年生のロドリゲズが代田の帽子とグラブを持って来た。すると、代田は大きく溜め息を吐いた。ロドリゲズには、防具を外すことに悩んでいるようにしか見えなかったが、代田が「どうも」と言ってグラブを受け取った
代田は守備位置のライトへ走って行った。その場で
ライトの定位置では、なぜか代田が浮かない表情をしていた。
「ボールカウントが気になるんだよな。気になるからカウントが増える前に打ったけど、駄目か……。今日の運勢の
センターからキースが、何かを呟いている代田の様子を不思議そうに思いながら見ている。すると、サードの薩田が叫びだした。
「へーい! しまっていくぞー!」
それを見て甲田は「キャッチャーのぼくが言うやつ……」と思ったが、しかたなく「おーう、しまっていくぞ」と返してやった。玉置と日比、卯佐木は、片手を挙げて応えてあげていた。卯佐木に限っては、サムズアップをして目にも止まらぬ速さでそれを引っ込めた。
他のメンバーはいつものように無視した。薩田への対応が、きれいに
「このメンバーでの初戦の初回、こんなものかな」と上川は囁いた。
そしてグラブをはめた。マウンドに振り向いた。
ピッチャーの玉置に走り寄った甲田。
「ぼくたちは公式試合は初めてみたいなティームなんだ。なるようになる」と言う口元は、ミットで隠さない。
ボールを渡されると、玉置はきりっとしていた
「……おれは、もはや温存してもらえそうにないな」