目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

ep.20 ウェスト領事変③

 作戦はことわざにのっとって、先手必勝。

 兵士の大多数が町から出ている今はこの上ないチャンスだ。

 そりゃあ、城に残る警備兵は普通の兵士より強いんだろうけど、一人だけなら怖くない。連携を取る暇もなく倒せばいいのだ。


魔弾マジック・バレット!」


 リュシェが魔法で大きな扉を吹き飛ばす。

 ここからは本当にスピード勝負だ。どれだけ早く、多くの兵士を倒せるか。


引き寄せる魔法アトラクト


 まずは玄関ホールにいた人間を魔法でテキトーなところ引き寄せて動けなくする。


 そのまま目の前の階段を駆け上がって、二階の廊下に出る。


「なんだ! お前たち!」 「不審者めっ!」


 守備兵たちは私たちを見るなり、驚きの声を上げてから魔法を出そうとする。驚いている暇があったら魔法を出せばよかったのに。だから、こんな目に合うんだ。


爆発魔法デトネーション!!」


 十人くらいがあと一瞬早く魔法を出して、完成された魔法を出せていれば何とかなったかもしれないのに……。カワイソウだ。


 おかしい。目の前に敵はいないのに、一人だけ魔力探知に引っかかり続けている。

 後ろか!

 振り返ると、数メートル離れた先で魔法の詠唱をしている兵士が一人いた。


引き寄せる魔法アトラクト


 右手から相手の魔法のを止めるために、左手から兵士を引き寄せる魔力の球体を出す。


「うわっ!」


 彼の手から出た氷の刃とほとんど同じスピードで彼自身が私の目の前に飛んでくる。

 必死に出した魔法は私たちに届かず、彼は幻想のナイフミラージュナイフに刺される。



 ここがさっき刺した兵士の心の中なのだろう。

 実験で刺した商人の時と同じような場所に来た。ここですることは一つ、守護者をたおすこと。


 今回の守護者は魔法を使ってきた。商人の時とは違い、武器は使わない。それなりに強かったけど、詠唱の隙をつついて終わりだった。


 精神の根幹の写真が私に入れ替わったことを確認して、現実世界へ帰る。



「私はユウ。何なりと申し付けください」


 ひざまずく兵士を横目にリュシェに質問する。


「領主は殺す。いいよね?」


 リュシェは無言でうなずいた。


「今から行くけど、来る? 見たくないなら、無理しなくてもいいから」


 リュシェはまた無言でうなずいた。


「ユウ。領主のところまで案内して」


 領主のところまでは、私とリュシェの腕に縄を巻いて、つかまったことを装った。

 主を縄で縛って引っ張ることなどできない、と反発されたけど押し切った。


「ここが領主様のお部屋です」


「ありがと。縄をほどいて」


 ユウが丁寧な手つきで縄をほどいてくれる。一時とはいえ、手首が結ばれているのはしんどかった。

 手首をひねり、いつも通り動くことを確認し、ドアノブに手をかける。


「ユウ、誰も来ないよう見張ってて」


「わかりました」


「リュシェ、行くよ」


 重い扉は音を立てて開き、私は夢へ足を踏み出す。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?