拘束具につながれた私は馬車に乗せられた。拘束魔法は解かれたのに、魔力を使えないということは特殊な魔道具なのだろう。
どこに向かうのかも伝えられないまま馬車は動き出した。捕虜という立場だけど、実質は犯罪者なので当然といえば当然なのかもしれない。
馬車の見張りは定期的に交代していた。顔は違えど、全員同じ服装なのであまり変化は感じなかい。
七回目の交代でグレイアが見張りに来た。隊長というだけあって、ほかの人とは見にまとうオーラが違う。
「リティー、お前の罪は不法侵入だけだ」
「え?」
私はあの場で、領主を殺すために来たと伝えたはずだ。
「これは機密なのだが、お前が知ったところで機密のままだから伝えるが、ウェスト領は明日からなくなる」
グレイアの口から衝撃的な事実が伝えられる。ウェスト領が消える?
「私が執事として仕えていたのも、秘密裏に兵を動かしたのもすべてノース領の作戦だ。だから、貴様が殺そうとしたウェスト領領主なんてものは初めから
ウェスト領がなくなるなんて…… 私は今歴史の転換点にいるのかもしれない。
だけど、それよりも、
「政府の組織がそんなことしていいの?」
「政府の組織か…… 半分正解で半分間違っている。その政府がさすのはノース領の政府だけだ。ほかの領土、もちろん王族のいるセントラルも例外なく敵だ」
幻魔騎士団、おもっていたよりも過激だった。まさかノース領だけの組織だったなんて。私は王族か中央議会の組織だと思っていた。
彼らなら、私の代わりに世界を変えてくれるかもしれない。
「それと、これは私の独り言なのだが、今晩ゼル=ノースについてすぐに我々は報告に行く。その時、私はこの馬車の鍵を閉め忘れる。そして、その手錠の鍵は後ろの馬車の中にある」
「そんなこと言っていいんですか?」
「独り言だからな。それに、弟を助けてくれた恩がある」
グレイアは案外情に厚い人なのかもしれない。
♦
ゼル=ノースに到着したのは夜遅くだった。こんな時でも、規則に従って領主に報告に行かなければならないなんて馬鹿げてる。
馬鹿げているといえば、馬車の中でゼリオス団長が捕虜に話していた内容だ。なぜ捕虜を逃がすのだ? 幻魔騎士団の存在を知っている時点で、抹殺対象になるはずなのに……
「団長。なぜ、捕虜を逃がすのですか?」
「違うよ、リルダン君。逃がすのではない。私の不注意によって逃げられるのだ」
理由になってないな。質問を変えよう。
「彼女に何を感じたのですか?」
「さあね。ただ、彼女なら何かを変えてくれるような気がするんだ。それだけだよ」