私の名前はリルダン。ヴィセル・リルダン。
名誉ある幻魔騎士団の一員だ。
一団員として、ゼリオス団長はすごく尊敬している。尊敬しているけど、今回のことは理解できない。
幻魔騎士団の存在を知っている魔族を見逃すなんて、どう考えても間違っている。
逃がすだけじゃなく、荷物の場所は教えるし、幻魔騎士団の魔導書も上げるしで無茶苦茶だ。
いくら弟が帰ってきてうれしいからってこんなことは間違ってる。弟といえば、終始団長を見ておびえていたような……気のせいか。家族だもんな。
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「団長。私にリティー・ノアを追う許可をください」
領主へ報告した後の帰り道に許可を求めた。領主も逃げられたこと(逃がしたことは伝えていない)にお怒りだったし、さすがに許可をくれるだろう。
「いいだろう」
ビンゴ! さすがに領主にまで文句を言われたら、団長として追わないわけにはいかない。
「――ただし、俺を倒せたらな」
え? 団長に勝てたら? そんなの無理だ。体術も、魔法も勝てるわけない。
「どうした? お前の正義はその程度なのか?」
僕の、正義……そうだ。何事もやってみなくちゃわからない。それに、この件に関しては団長が悪い。きっと神様も力を貸してくれるはずだ。
「やります。僕は団長に勝って、正義を遂行する!」
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街中での魔法の使用は禁止されているので、騎士団の修練場ですることになった。
「ルールは一本選手。魔法、武器の使用は許可する。ただし、翌日の任務に障害の出る攻撃は不可。構え!」
つまり、殺したり障害を負わせなければ、何をしてもいいルール。団長の手の内を部下の僕は知っているけれど、僕の手の内を団長は知らない。
いつも一人ですべてを終わらせる団長の戦い方は何度も見てきた。どんな状況にも冷静に対処して、敵と対峙するときは驚くほど冷酷になる。
だけど、どんなに完璧に見える人間も、予想外の出来事の直後には必ず隙ができる。
「はじめ!」
審判の声と同時に、団長が走ってくる。右手には竹刀、左手には魔力が集まっている。
集まる魔力の量から察するに、特級魔法だろう。団長の使う特級魔法は三つ。氷属性、闇属性、そして固有魔法である空間魔法だ。
だけど、空間魔法と闇属性の特級は絶対に体のどこかは欠損する。だから、先輩が使うのは、
「
触れたものの体温を一気に奪い、戦闘能力を奪う技。恐ろしい技だけど、来るのが分かってたら怖くはない。
「
僕はまだ特級魔法は使えない。だけど、属性相性で勝てれば特級魔法でも相殺できる。
氷と炎がぶつかり合い、砂埃と煙で視界を奪われる。だけど、視界を奪われているのは団長も同じだ。
ここはいったん待って……いや、ここで攻めないと絶対に勝てない。だけど、あの魔法を使えば自分もダメージを負うかもしれない……やるんだ、何としてでも勝つんだ。
「
すさまじい爆音と暴風で自分も壁にたたきつけられてしまう。僕はタイミングが話あってたから受け身が取れたけど、団長はとれていないはずだ。
あたりを見回し、団長を探す。どこだ、どこにいる?
「コントロールが甘い!」
後ろから声がしたと思うと、首筋には竹刀が突き付けられていた。
「参りました」
「俺の勝ちだな!」
悔しい。悔しいけど、それよりも、
「どうやって魔法を防いだんですか? 絶対ノーマークだと思ったのに……」
「リルダンの魔法を俺は知らないと思っていただろ。まだまだ甘いな。毎日、毎日、夜まで魔法の特訓をしているのを俺は知っていたからな~」
そうだったのか。
「団長は自分のことしか興味ないタイプだと思っていました。すいません」
「失礼な奴だな。まあ、リルダンにしては頑張ったほうじゃないか。これからも励めよ」
結局負けてしまった。この人の背中はどれだけ遠いのだろう。
「負けたので今回の件はおとなしく、団長に従います」
約束は約束だ。仕方がない。
「好きにしなよ」
「え?」
「リルダンの実力はわかったし、死なないと判断したから好きにしていいよ」
先ほどの手合わせは実量を調べるためだったのか。
「ありがとうございます!」
「だけど、絶対に死んじゃだめだよ、あと、ナイフに気を付けて」
「わかりました」
ナイフごときに僕がやられると思っているのだろうか。それとも、あのナイフが団長に警戒されるような力があるのか。
こうして僕はリティー・ノアを追う旅に出る。