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ep.26 転禍為福⑤

 ここは精神世界か。壁の写真を見て安堵する。天国じゃなくてよかった。

 無我夢中で戦ってたので、勝ったのか負けたのか理解するのに手間取ってしまった。


 彼の精神世界は何というか、光っていた。

 飾ってある写真、思い出はどれも表彰や努力のシーンばかりだった。真面目で努力家だったんだろうな。

 自分のでもないのに、輝かしい思いでに見入ってしまった。


 一番奥の部屋の額縁の中には、幻魔騎士団に入ったときであろう写真が入っていた。今まで努力が実った瞬間だったのだろう。


「ごめんね」


 私は心の中で呟きながら、守護者を下し額縁ごと引き裂く。


 精神世界からでたとき、そこにいたのは幻魔騎士団の彼ではなかった。これで心が痛むのは私の弱さなのだろうか。

 こんなとき、リュシェは何と言うだろう。優しく慰めてくれるだろうか。

 というより、リュシェは大丈夫なのだろうか。結局お兄さんと一緒に幻魔騎士団に戻っていたけど、嫌な思いをしていないだろうか。


「大丈夫ですか?」


 目の前の元幻魔騎士団に心配された。

 なぜ心配するのだろう。私はいたって普通のはず――



 目を開けると知らない天井だった。天井といっても建物の中ではなく、洞窟の中だった。

 私は洞窟の中で寝ていたらしい。寝転がっていたし、誰のかわからないコートがかぶせられてあった。

 体を起こし、記憶をたどっていると誰かに声をかけられた。


「お嬢! 体調はよろしいのですか?」


 振り返ると、森で戦った幻魔騎士団の姿があった。確か名前は……そもそも知らないな。


「えっと、名前は?」


「ヴィセル・リルダンでございます。隊長はよろしいのですか? 先ほど過呼吸で倒れたので、こちらで看病しておりました」


 過呼吸か、私は自分が思っているほど強い心の持ち主じゃないのか。こんなんで修羅になれるのかな。

 ところで、


「ヴィセルはなにをしているの?」


「薪になるものを集めてきたので火を起こして簡単な料理を」


 とってきたであろう枝をたき火の形に組んでいるし、後ろには鳥の死体が数羽分ある。

 こいつはオク太郎とちがって優秀だな。言葉も流暢だし、勝手にいろいろしてくれる。

 そもそもなんで違いが生まれるんだろう? 種族の違い? 幻想のナイフミラージュナイフについてはわからないことも多いし、別にいいや。


 まだ霧がかかっている頭と一緒にボーっとしていると、いい香りがしてきた。


「焼き鳥です。近くに香草があったので使ってみました」


 そう言って、焚火の近くから焼き鳥を一本手渡してくれて。確かに、焼き鳥に刻まれた香草がかかっている。


 その日は焼き鳥を食べてすぐに寝た。なんて健康的なんだろう。

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