ここは精神世界か。壁の写真を見て安堵する。天国じゃなくてよかった。
無我夢中で戦ってたので、勝ったのか負けたのか理解するのに手間取ってしまった。
彼の精神世界は何というか、光っていた。
飾ってある写真、思い出はどれも表彰や努力のシーンばかりだった。真面目で努力家だったんだろうな。
自分のでもないのに、輝かしい思いでに見入ってしまった。
一番奥の部屋の額縁の中には、幻魔騎士団に入ったときであろう写真が入っていた。今まで努力が実った瞬間だったのだろう。
「ごめんね」
私は心の中で呟きながら、守護者を下し額縁ごと引き裂く。
精神世界からでたとき、そこにいたのは幻魔騎士団の彼ではなかった。これで心が痛むのは私の弱さなのだろうか。
こんなとき、リュシェは何と言うだろう。優しく慰めてくれるだろうか。
というより、リュシェは大丈夫なのだろうか。結局お兄さんと一緒に幻魔騎士団に戻っていたけど、嫌な思いをしていないだろうか。
「大丈夫ですか?」
目の前の元幻魔騎士団に心配された。
なぜ心配するのだろう。私はいたって普通のはず――
♦
目を開けると知らない天井だった。天井といっても建物の中ではなく、洞窟の中だった。
私は洞窟の中で寝ていたらしい。寝転がっていたし、誰のかわからないコートがかぶせられてあった。
体を起こし、記憶をたどっていると誰かに声をかけられた。
「お嬢! 体調はよろしいのですか?」
振り返ると、森で戦った幻魔騎士団の姿があった。確か名前は……そもそも知らないな。
「えっと、名前は?」
「ヴィセル・リルダンでございます。隊長はよろしいのですか? 先ほど過呼吸で倒れたので、こちらで看病しておりました」
過呼吸か、私は自分が思っているほど強い心の持ち主じゃないのか。こんなんで修羅になれるのかな。
ところで、
「ヴィセルはなにをしているの?」
「薪になるものを集めてきたので火を起こして簡単な料理を」
とってきたであろう枝をたき火の形に組んでいるし、後ろには鳥の死体が数羽分ある。
こいつはオク太郎とちがって優秀だな。言葉も流暢だし、勝手にいろいろしてくれる。
そもそもなんで違いが生まれるんだろう? 種族の違い?
まだ霧がかかっている頭と一緒にボーっとしていると、いい香りがしてきた。
「焼き鳥です。近くに香草があったので使ってみました」
そう言って、焚火の近くから焼き鳥を一本手渡してくれて。確かに、焼き鳥に刻まれた香草がかかっている。
その日は焼き鳥を食べてすぐに寝た。なんて健康的なんだろう。