健康な私の朝は早い、なんてことはなく、結局その日は昼過ぎまで寝ていた。
外では、ヴィセルが魔法の練習をしている。
今は幻魔騎士団どころか貴族ですらないのに、まじめな人だ。
昔の私もあれくらい真面目だったら使える魔法の一つや二つ、一属性くらい増えてたのにな。
ボーっとヴィセルを見つめていると、ヴィセルは私に気づいたようだった。
「お目覚めになられたのですね! 昼食をとって、さっそく出発しましょう」
出発? いったいどこに何しに行くというのだ?
「どこに?」
「いまの情勢と
サウス領、魔界の南側にある領土。
サウス領はたしかにノース領やウェスト領と比べると軍事力は少ない。だけど、比較対象が別格なだけで、イースト領よりはるかに強いはずだ。
「五大領土の中で唯一、ノース領と陸続きでないため、ほかの領土より警戒が薄いはずです。わずかな警戒も、ノース領のせいで内情がぐちゃぐちゃなウェスト領に向けられています」
確かにその通りかもしれない。ノース領がウェスト領を侵攻したことで、どの領地も警戒が強まっている。
「私たちが今いるノース領からでも、セントラル領を介せば簡単に入れるでしょう」
こいつ、できる!!
♦
セントラル領に入ったのは、夜の八時くらいだった。
全速力で飛んできたけれど、出発するのが遅かったせいで夜になってしまった。
「野宿することを提案します。貴重な資金は装備に回すべきかと」
確かにその通りだ。私も、リュシェが駄々をこねなければそれでいいと思っていたし、賛成だ。
近くの手ごろな洞窟で、夜を明かした。
その後も、起きては飛び続けて、夜は野宿で魔力を回復する。そんな生活を続けて一週間と少し。何とかサウス領の領主城下町にやってこれた。
町の名前はそのままの「セントラル・オブ・サウス」らしい。
町を歩いて耳にした話だけど、ヴィセルの言っていた通り、西側の警戒は大分強まっているらしい。なんでも、関所で一週間待たないとサウス領に入れないらしい。
みごとにヴィセルの読みが当たったということだ。北から入るのはとても簡単だった。