この町は領主の屋敷を中心に扇形に広がっている。上から見た形は扇形だけど、横から見たら階段状になっている。
領主とその血族が住む上層、その他貴族が住む中層、一般人が住む下層。きれいに三段に分かれていて、層を移動するときは身分証か通行許可証がいる。残念なことに私たちはそれを持ちあわせていなかった。
「ねえヴィセル。どうしようか」
下層から中層へ移動するための階段を見上げながらヴィセルに尋ねる。ちなみに、会談は三つあって、これは真ん中の階段。一応、全部見てきたけれどどの階段の前にも兵隊が五、六人立っている。
空を飛べばいいと思うかもしれないが、街中での飛行は法律にひっかかる。問答無用で撃ち落とされて終わりだ。
「そうですね、どうしましょう」
強行突破は無理だろうな。ここを突破できても、中層の階段でぼこぼこにされて終わりだ。数で負けている以上先手はとりたい。
少しの間悩んだのち、ヴィセルがひらめいたようにつぶやいた。
「あ、あります。中に入る方法」
え? 私は驚きヴィセルのほうを見る。
「ここは人目に付くので向こうで話しましょう」
そう言って公園のほうを指さす。
たしかに大階段の前で腕を組んで考えてる人が二人もいたら怪しいし、目立つ。それに、階段の前の兵隊も私たちを注視している。
「そうだね……」
町に入る前に
ちなみにヴィセルは戦った時から変わらす、ジーンズに白シャツ、黒いパーカだ。そもそものスタイルがいいのか、何を着ても様になりそうだ。
公園のベンチに腰を下ろし、砂場を何気なしに見る。そこには無邪気に遊ぶ子供の姿があった。平和がそこにはあった。
「先ほどの続きですが、」
丁寧な前置きの後に語られた作戦は驚くほどシンプルなものだった。シンプルだけれど、すべての問題をクリアしたものだった。
「――まず確認ですが、そのナイフで刺して、精神世界にいる間は現実世界の時間は止まっているんですよね?」
「そうだけど」
こんなことを聞いてどうするつもりだろう。
「まず、突っ込んで一人を刺して仲間にします。残りの五人も同じです。一人でも逃がしたら失敗なので頑張ってください」
確かにこの作戦なら戦わないで屋敷まで到達できるな。屋敷内の護衛とは戦いになるけど。
「まだ続きがあります。三人だけ階段前に残して、ほかの三人にそれぞれ中層、下層の東側と西側に行ってもらって『西から敵が攻めてきた! 全軍で迎え撃たなければ勝てない』と伝えさせましょう」
そういうことか。これなら、加速度的に情報が渡って、屋敷の中の護衛も外にひっりだせる。
領主を殺して、兵士を全員ナイフで手下にできれば……!!
やはりヴィセルはできるやつだ。