そうと決まれば、やることは一つなのだけれど、何の信号も出させずに全員ナイフで刺すというのはすごく難しい。
大階段前の六人を拘束できたらいいのだけれど、そう簡単にはいかないだろうな。
拘束といえば、グレイアが私に使った魔法があるけれどヴィセルは使えるだろうか。
「グレイアが私に使った拘束魔法があるんだけど、ヴィセルは使える?」
「いくら団長と言えど、礼儀がなってないですね。その魔法は私は使えません。そもそも呪文も知らないので」
だそうだ。やっぱり
せめて呪文が分かればなんとかなるかもしれないけど……
「呪文といえば、団長から何かもらってませんでしたか?」
そういえば確かに私の荷物と一緒に魔導書が置いてあった。たしかポーチに入れたはず……
横に置いてあるポーチはすでに空いていて、私のでもヴィセルのでもない手が刺さっていた。
私たちがしゃべるのをやめて少しの間動き続けた腕が停止した。
しゃがんでいるのか姿は見えない。
顔を見ようと覗き込んだ瞬間、小さな影が飛び出していった。
「あ……」
あまりにも衝撃だったので固まってしまった。目の前で泥棒されるとは思ってもみなかった。
何を盗られたのだろうか。走っていった子供の手を見ると、何か分厚い本がある。
ポーチに入れていた本といえば、魔導書と……あ!
「魔導書!
とっさにはなった魔法だったので、対象を細かく決めてなかった。おかげで、枯れ枝やら、落ち葉も一緒に飛んできた。
正確には落ち葉と枯れ枝しか集まらなかった。わたしの魔法の範囲外に出てしまっていた。子供は風の子か……。
「ヴィセル! あれ?」
ヴィセルにも捕まえるのを手伝ってもらおうと声をかけようとすると、そこにはいなかった。あれ? さっきまで隣にいたのに……。
「待ちなさい!!」
聞きなれた声がした方向に目をやると、公園とつながっている通りでヴィセルが走っていた。子供を追ってくれているのだろうか。
さすがにヴィセルの足と魔力探知からは逃げきれないはずだ。