ただの子供がヴィセルから逃げきれるはずないのだ。
「すいません。逃げられてしまいました」
泥棒の子供にどう説教するか考えてた私にとって、それは予想外の答えだった。
かっこいいセリフも、相手の反論に対する返しも考えてたのに……。
「え? あ、そ、そう……とりあえず見失ったところまでいこう」
「わかりました。こちらです」
ヴィセルのエスコートの元たどり着いたのは街の外へとつながるであろう抜け穴だった。子供がギリギリ通れるかどうかの穴だったのでヴィセルには通れない。
だから逃げられたのか。納得だけど、城塞都市なのだから壁もそれなりに固いはずだ。地中にもよっぽど深くない限り壁はあるはずだ。
ほんとうにただの子供なの?
「ねえヴィセル、あいての魔力は覚えた?」
「覚えました。魔力探知の範囲に入ればわかります」
相手が普通の子供じゃなくても、こっちにはヴィセルがいるのだ。絶対に逃がさない!
「いったん町から出て、あの抜け穴がつながってそうな場所で待ち伏せをしよう。流石に、夜は街に入りたいだろうし」
町に入ったときと同じ、北側の関門を抜け、抜け穴の出口を探す。
街の北西は森になっていて、捜索は困難を極めた。背の高い木が多いので暗いし、何より虫が多い。手のひらくらいの大きさの虫や、足が多くて長いムカデもいた。ほかの領土より温暖なのは間違いないけれど、こんな熱帯雨林みたいな森ができるような気候じゃないのに。
「おかしいですね」
「え?」
「ここの気候でこんなに森が発達するなんて。それに、木々や虫たちからかすかに子供の魔力を感じる」
虫と木の魔力については子供の魔力を知らないので何とも言えないけど、気候については同じ意見だ。それに、言われてみれば確かに木と虫が同じ魔力を微量ながら持っている。
ほんとうにあの子供は何者なんだ?
「うわっ!」
歩いていると、急に地面がなくなった。考え事をしていた自分も悪いけど、落とし穴に堕ちてしまうなんて恥ずかしい。
――落とし穴?
誰も通らないような森のど真ん中に落とし穴なんて作るわけない。しゃがんでどこかにつながってないか確認する。
ない。絶対にあると思ったのに、子供が取れそうな穴は一つもなかった。
ぜったいあると思ったのにな。
「
後ろからヴィセルがやってきた。大分先を歩いていたはずだけど、ついてこない私を心配して戻ってきてくれたのだろうか。
「ここに魔法の痕跡があります。とても微量ですが、土属性の魔力を感じる」
私には感じられない何かを感じたヴィセルが土に腕を突っ込んだ。すると、そこにあった土がボロボロと崩れて子供一人分くらいの穴が出てきた。
魔法で土の壁を作っていたのか。
「作戦通り、この付近で待ち伏せしましょう」
私は草陰に隠れて、
どっからでもやってこい!