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第6章: 答えを求めて


葵は急いで学園の図書館へ向かっていた。バッグの中には、まるでただのぬいぐるみのようにレンが押し込まれている。話す人形なんて信じられないが、もし本当に呪われていたり、何かに憑かれていたりしたら…。そう考えると、不安を拭えなかった。


バッグの中のレンは何も見えなかったが、葵の独り言が聞こえていた。


「ったく… なんで私がこんなことに巻き込まれなきゃならないのよ? バカみたい! 入学式もサボったっていうのに、今度は呪いについて調べる羽目になるなんて… 本当に最悪!」


図書館に到着すると、静かで荘厳な空間が広がっていた。古い本や新しい魔道書が並ぶ本棚の間を歩きながら、葵は魔法の基礎や禁じられた物品に関する資料があるエリアへ向かった。


(入学式には出なかったけど、この学校にも多少は役に立つものがあるみたいね…)


葵はカタログをめくりながら、そう考えた。


彼女は学園生活にあまり興味がなかった。彼女の魔法は、小さな炎を浮かべる程度のもの。それに比べて、他の生徒たちは強力な精霊を召喚したり、壮大な呪文を使ったりできる。葵の能力はまるで安っぽい手品のようで、だからこそ、学園では目立たないようにしていた。


クラスの子たちもよくからかってきた。


「ほら、ロウソクちゃんが来たよ~」


そんな言葉を何度も浴びて、葵は次第に冷めた態度を取るようになっていた。でも今は違う。レンのことを調べるため、初めて自ら積極的に行動していた。



---


しばらく探した後、葵は『呪われた物品とその性質』という本を見つけた。人目につかない席に座ると、バッグからレンを取り出し、まるで飾り物のようにそっと横に置いた。そして、周囲を警戒しながら本を開いた。


レンは動けないながらも、葵が真剣な表情でページをめくるのをじっと見ていた。


(もし動けたら、俺も手伝えるのに… でも、今できることはこれしかない。)


葵は小さな声で本を読み始めた。


「呪われた物品とは、意図的に、または事故によって闇の魔力が宿ったものを指す。これらの物品は予測不能かつ危険であるため、魔法機関では厳しく管理されている…」


ページをめくると、「操り人形」について書かれた項目が目に入った。


「魔法で動く人形は稀である。一部は補助魔法具として作られるが、中には呪われたものも存在する。特に、魂が宿った人形は特殊であり、多くの場合、持ち主との接触によってのみ活動が可能となる。」


葵は眉をひそめ、横に置いていたレンを見つめた。


「…魂が宿ってる? それがあんたってこと?」


さすがにレンから返事はなかったが、葵は少し考えた後、ゆっくりとレンの中に手を入れた。


すると、レンの身体がふわっと動き出し、すぐに両腕をバタバタさせながら話し出した。


「うわっ、びっくりした! …葵、落ち着いて! 俺だよ、レン!」


葵は驚きすぎて本を落としそうになったが、なんとかこらえた。


「じゃあ… これは本当だったの?」


レンは少し戸惑いながら言った。


「わからない…。俺はただの会社員だった。普通に仕事して、普通に生きてた。でも気づいたら、この姿になってたんだ。」


彼は小さく腕を動かしながら続けた。


「でも、さっきの本の内容、少し納得できるかも。俺は誰かが触れてるときしか動けない。つまり、葵の魔力が俺を活性化させてるんじゃないか?」


葵は小さくため息をついた。


「…へぇ、私の"ちっぽけな"魔力でも役に立つってこと?」


少し拗ねたように腕を組む。


レンは焦って両手を振った。


「いやいや! そんなつもりじゃなくて! むしろ感謝してる。おかげで話せるし、少しでも動ける。」


葵は一瞬、頬を赤らめたが、すぐに目をそらした。


「ふん、勘違いしないでよ。別にあんたのためにやってるんじゃないから!」


そんなやりとりの中、図書館の入り口から聞き慣れた声が響いた。


「あら? 今日はちゃんと授業に出たのね。ロウソクちゃんが。」


葵の表情が一瞬で険しくなった。嫌なクラスメイトたちの声だった。


レンは葵の顔を見上げた。


(あの炎の魔法のこと、葵は気にしてないフリをしてるけど… やっぱり、本当は傷ついてるんだな。)


葵はレンに向かって小声で言った。


「動かないで。何も言わないでよ。」


そして、本を素早く閉じ、何事もなかったように立ち上がった。


レンはバッ

グの中から彼女の背中を見つめながら、考えていた。


(俺はぬいぐるみの姿から抜け出したい。でも…葵もまた、自分の「形」を変えられずにいるのかもしれない。)


– 第6章 終 –


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