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犬からゴハンを奪い、雉を狩る地域猫「アンナ」

 ふさおのエピソードに少し登場した母猫アンナ。

 彼女はとても逞しい猫だった。


 犬の顔面に猛烈パンチを浴びせて鼻血を出させたり。

 犬のゴハンを奪ったり。

 野鳥や蛇や蛙を狩ったり。


 自分の身体と大きさが変わらない雉を咥えて自慢しに来たこともある。

 その狩猟能力の高さは、プラスチック容器をボロボロにする顎の力の強さによるものかもしれない。


 アンナは脱走能力も優れていた。

 TNRの捕獲でケージに閉じ込めた直後、鉄格子の3.5cmの隙間から抜け出した。

 その様子は、まるで軟体動物。

 まさに「猫は液体」という言葉がピッタリ。


 アンナは人懐っこい猫なので、里親探しを考えたこともある。

 しかし、屋外で生まれ育った彼女は、室内飼いには向かなかった。

 室内に入れると、外まで聞こえる大声で鳴き叫ぶ。

 ゴハンも水も口にしようとせずに、延々と泣きわめき続ける猫。

 結局保護は諦めて、TNRの避妊手術を済ませてリリースした。


 地域猫になってからも、アンナには毎年5種ワクチン接種を続けた。

 獣医さんや看護師さんに印象が良いワケは、診察台に乗せてもスリゴロだから。

 一般的な猫はネットに入れて捕まえておかないと注射なんてできないけど。

 アンナは看護師さんが撫でてあげれば大人しくしていて、獣医さんがお尻にブスッと針を刺しても気付かない。

 こんなに楽に打てるなら、ぜひ毎年来て下さいと言われたほど。


 アンナは人間にはベタ甘だけど、猫には辛辣。

 我が家の玄関前に居着いたときは、前から通って来ていた他の猫にパンチを浴びせてゴハンを奪った。

 当数分の小皿に分けてあちこちに置いても、ついて回って全ての猫にパンチして小皿に顔を突っ込んで食べる。

 その食い意地に引いていた他猫たちは次第に来なくなり、やがてアンナの貸し切り餌場となった。


 我が家の庭がアンナの貸し切り餌場と化して4年が経つ頃。

 アンナよりも強い猫が出現。

 若くて勢いがある猫が、アンナを打ち負かした。

 これまで流れのオスを全て追い払っていた御庭番アンナ、初めての敗北。


 屋外生活の地域猫たちには、時折餌場争いが勃発することがある。

 アンナのように、餌場を独占したがる猫もいる。

 その猫に勝てないと察したのか、アンナは餌場を明け渡して去っていった。

 今では集落内で見かけなくなっているので、別の集落へ引っ越してしまったのかもしれない。



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