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エリアボス猫「チンちゃん」

 2017年12月。

 我が家の玄関前に、目つきの悪い大猫が現れた。

 普通の猫の2倍サイズ、白い毛皮はケンカ相手の返り血で染まっている、極道みたいなオーラを放つ猫。

 自治会TNRメンバーが名付けた呼び名は「チンピラのチンちゃん」。


 オス猫には容赦ないパンチを放つチンちゃんだが、メス猫と人間には優しい。

 当時、我が家の玄関前には2匹のメス猫がゴハンを食べに通って来ていた。

 チンちゃんはその2匹が食べ終わるまで静かに座って待ち、後からゆっくり食べ始める。

 食事を終えると、まるで「ありがとな」と言うように、1回そっと頭をすり寄せてから帰っていく。

 チンちゃんはオスというより「おとこ」という表現の方が似合う猫だった。



 チンちゃんは2017年にTNRの去勢手術を受けた。

 彼の捕獲はとても簡単。

 キャリーの中にゴハンを置いて、入って食べている最中に扉を閉めるだけ。

 ただ、標準サイズの猫を入れるSキャリーには納まらないので、ワンサイズ上のMキャリーを使った。


「重~っ!」

「ボスですかねぇ?」

「この大きさはボスっぽいわ~。7キロ超えてるし」


 手術前の体重を量るため、チンちゃんが入った園芸ネットを持ち上げた女性獣医師がヨロヨロしていた。

 その後、チンちゃんの去勢手術は無事完了。


「お前なんてことしてくれたんだ、俺のタマを取っちまうなんて……」


 手術を終えたチンちゃんは、投薬期間を過ごしたケージの中で恨めしそうに鳴いていた。

 去勢手術を済ませてから、チンちゃんはケンカしなくなった。

 全ての猫がそうとは限らないけれど、オス猫のケンカは去勢手術によって減るらしい。



 リリース後、チンちゃんは我が家の庭に来なくなった。

 閉じ込められて眠らされて、起きたらタマが無くなっていて、ヤバイ場所だとでも思われたのか?

 チンちゃんは我が家から直線距離で500メートルほど離れた自治会長の家の庭先に移っていった。

 以降、彼は自治会長の餌やり猫になっている。


 ケンカばかりしていたチンちゃんは、FIV(猫免疫不全ウイルス)に感染していたという。

 7キロあった体重は3キロまで減り、心配した自治会長が病院で検査してもらったところ、陽性と判明した。

 野良猫のオスのFIV感染は、ケンカで負傷したり血を浴びたりして拡大するのかもしれない。


 チンちゃんは3年ほど自治会長の餌やり地域猫として暮らした後、いずこかへ姿を消した。

 交通事故や遺体の情報は入ってきていないので、生きていると信じよう。

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