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認知症になっても主への想いは忘れない犬「小次郎」

 2019年1月、知人から1匹の犬を預かった。

 元保護犬「小次郎」。

 若い頃は気が荒くて、獣医さんも迂闊に触れられない犬だったという。

 我が家で預かった頃には認知症が進んでおり、気性の荒さは無くなっていた。


 知人が帰省する間だけの、短期預かり。

 初めて預かった小次郎は、ゴハンを食べなかった。


 いつものドライフードに、いつものトッピング。

 飼い主である知人から渡されたから、小次郎が食べ慣れたものの筈。

 しかし、小次郎は食べようとしない。

 しばらくそのまま置いて離れて、戻って見たらトッピングだけ食べていた。


 小次郎は腎臓疾患を持っており、毎日の投薬が必要な超高齢犬。

 持病の薬は、ゴハンに混ぜて与えるタイプ。

 ゴハンを食べてくれないと、薬を飲ませられない。

 薬はトッピングの中に仕込んであるので、それだけでも食べてくれたのは幸いだった。


 翌日、散歩も頼まれていたので連れ出してみたら、なんか様子がおかしい。

 フラフラしていて、パタンと倒れてしまう。

 足が弱った高齢犬というのとは違う気がする。

 すぐに知人に電話して指示を受け、かかりつけ医のところへ搬送した。


「入院させた方がいいですね」


 かかりつけ医にそう言われ、知人にも報告。

 小次郎はそのまま病院に入院して点滴生活に入った。


「危篤状態で、飼い主さんが島に戻って来る前に亡くなる可能性が高いです」


 そう診断された小次郎は、その後1週間を生き抜いた。

 島に帰ってきた知人が迎えに行くと、大喜びで出迎えたという。

 病院から車まで自力で歩き、帰宅後には散歩も普通に行けたらしい。

 ゴハンもペロリ完食で、あの危篤状態はなんだったのか? と思ったほど。


 けれど翌日、再び危篤状態に。

 小次郎は、そのまま静かに息を引き取った。


 忠誠心の高い犬は、飼い主に看取られることを望むという。

 小次郎は主の帰りを待ち、一緒に最後の時を過ごし、きっと満足して旅立ったのだろう。


 認知症になっても、主を慕う気持ちは忘れなかった忠犬・小次郎。

 今は虹の橋のたもとで、いつか来る主との再会を待っている。

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