八重山保健所は、台風後に収容が一気に増える。
どういうことなのか?
答えは、台風後にあちこちでノーリードの犬が発見されるから。
犬たちは何故ノーリードになっているのか?
答えは、飼い主がわざと放したから。
田舎では、犬の屋外飼育は珍しいことではない。
石垣島でも、多くの犬が屋外生活をしている。
その犬たちの飼い主の中に、わざとリードをはずす者がいる。
夕方などの特定の時間だけ放される「勝手に散歩犬」。
島外からの移住者や観光客から迷い犬と間違われることが多い犬たちは、まるで家畜を草原に放牧するかのように日常的に放される。
車通りが多い街の中でも、犬が単独で歩道を歩いていたりする。
台風が接近した際にも、犬を放す飼い主がいる。
放す理由が「自力でどこかへ隠れさせるため」だという。
繋いだままだと台風の暴風雨を避けられないから、放して自主避難させるらしい。
玄関とか倉庫とか、屋内に入れるという考えにならないのが謎だ。
2019年の夏。
台風後に通行人が見つけて保健所へ連れて行った犬たちの中に、高齢のチワワがいた。
両目が白内障で濁り、視力は失われている老犬。
体重は2キロ、成猫よりも軽いその身体で、暴風雨の中を生き延びたチワワ。
預かりを引き受けてくれたボラが「チワ爺」と名付けた超小型犬は、保健所のケージの中で横倒しの体勢でベロをダランと出して寝ていたせいで、死にかけていると誤解された。
「今にも死にそうな犬がいます」
「じゃあせめて、ちゃんとした寝床で眠らせてあげましょう」
保健所の職員さんから報告を受けて、看取りのつもりでレスキューしたのだけど。
自宅に連れ帰って、寝床の準備をしている横で、犬は猫が残したゴハンをモリモリ食っていた。
(これ、今にも死にそうじゃないよね?)
ペロリ完食した様子にポカーンとしたのを、5年経った今でも覚えている。
更に想定外なことに、引き出した直後に内地から引き取り希望がきた。
保健所に収容された犬は、飼い主が1週間以上(状況により期間は変わる)迎えにこなければ、里親希望者への譲渡が可能になる。
チワ爺には、迎えに来る飼い主はいなかった。
引き取り希望者は内地の保健所の登録ボランティアだったので、保健所から確認を入れてもらった後に譲渡の準備を始めた。
犬の空輸の場合、フィラリア強陽性だと飛行機に乗せられない。
気候が温暖なため一年中「蚊」がいる石垣島。
保健所に収容された犬のフィラリア陽性率は高い。
フィラリア検査をしたチワ爺は、幸運なことに陰性だった。
引き取り希望の内地ボランティアと相談して空輸日程を決めて、空輸慣れした先輩ボランティアに飛行機の手配や空港への搬送をしてもらって、チワ爺は海の向こうへ旅立っていった。
収容間もない頃に「今にも死にそうな犬」と言われた彼は、内地のボラさん宅で1年半以上生きている。
今は老衰で永眠しているけれど、台風の中に放り出す飼い主のところにいるよりも、ずっと幸せな老後だったと思う。