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海で溺れていた犬「チャコ」

 2019年の夏のこと。

 海に落ちて溺れている犬がいた。

 通りすがりの人々に助け上げられ、病院へ運ばれた老犬。

 生き延びた犬は、迷い犬として保健所に収容された。


 その犬には首輪がついている。

 けれど、1ヶ月経っても飼い主は迎えにこなかった。

 首輪が付いていても、飼い主が名乗り出ないことは多い。

 この犬の飼い主も、そういう無責任な人物だったのだろう。

 もしかしたら、海に落ちる前から、飼い主に見捨てられていたのかもしれない。


 保健所は「飼い主が名乗り出る見込み無し」と判断して、サイト上の犬の情報に「譲渡可」と書き加えた。

 しかし、老犬に里親希望は滅多にこない。

 譲渡会に出すには、保健所からレスキューする必要がある。



 保健所の檻から出された途端、ショボクレていた老犬の表情が変わった。

 よほど嬉しかったのか、ニコニコしながら歩く。


 預かりボランティアを引き受けてくれた人が、犬に「チャコ」と仮名をつけた。

 毛色がチャコールブラウンだから、思いついたと言っていた。


 八重山保健所の犬たちは、ボランティアに時々シャンプーしてもらっている。

 チャコも引き出し前にキレイにしてもらった。

 シャンプー後には、里親募集用の画像を撮った。

 当時はガラケーで写りがイマイチだったので、撮りまくった画像が今でも残っている。



 見合い写真をいっぱい撮ったチャコだけど、実は譲渡会には出ていない。

 チャコを気にかけていた人が、じっくり考えてから保健所に里親希望の連絡をくれた。

 その頃にはチャコは預かりボラの家にいたので、そちらへ来てもらってのお見合いとなった。


 トライアルを経て正式譲渡になった老犬は、里親さんのもとで穏やかな余生を過ごした後、その生を終えた。

 フィラリアに心臓を蝕まれていたせいで長くは生きられなかったけれど。

 里親さんが見せてくれた画像のチャコは、いつもニコニコ笑顔だった。



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