2020年9月2日。
八重山保健所から、電話がかかってきた。
交通事故に遭った猫が収容されたのだけど、耳カットされた地域猫だった。
飼い主はいないと思うが、餌やりをしている人を知っていたら教えてほしい。
内容を簡単に説明すると、こんな感じ。
地域猫の餌やりをしている人は何人か知っている。
全員に聞いてみた。
TNRボランティアたちに、保健所へ確認に行ってもらった。
猫が倒れていた場所は、市街地にある公民館の敷地内。
知り合い関係のボラたちには、その付近で餌やりしている人はいないとのこと。
あれから4年になる今も、誰が餌やりしていた猫かは不明のままとなっている。
猫は交通事故の影響で後ろ足が動かなくなっていた。
発見者は保健所へ持ち込む前に、病院へ連れて行ったらしい。
その際にレントゲンに腎臓が写らなかったそうで、獣医師から「腎臓破裂かもしれない」と診断されたと職員さんは言っていた。
保健所では十分な治療が受けられない。
夕方に職員たちが退勤したら、猫の様子を見る人はいない。
当時は勤務先で某ウイルスのクラスターが発生したことから、僕は半月ほど自宅待機を命じられていた。
今なら24時間、猫の介護ができると思い、うちで預かることを提案すると、職員さんはすぐOKしてくれた。
そんなふうに柔軟に対応してもらえるのは、八重山保健所がミルクボランティアに乳飲み子を預けるなど収容動物を個人に預ける体制ができているからかもしれない。
猫は本来の保健所滞在期間(最低でも1週間は飼い主待ちで犬舎内に滞在する)を待たずに、収容当日引き出しとなった。
問題は、自宅待機中の僕が、保健所へ行けないこと。
ボランティア仲間Sさんに相談したら、すぐに保健所へ行ってくれた。
申請書を代筆して猫を受け取り、我が家まで搬送するまでの時間がめちゃくちゃ早くて驚いたのを覚えている。
保健所の職員さんが僕に電話してからSさんが猫を我が家に連れて来るまで、2時間かかってないかも。
結局、腎臓破裂は誤診で、猫はSさんの搬送中に大量シッコを出して、腎臓は健在であると知らしめている。
我が家に来た猫は、驚異の回復力を持っていた。
来た当日からしばらくは横になっていることが多く、立ち上がれないからトイレの代わりにペットシーツに排泄していたけれど。
僅か1週間で歩行能力が回復し、猫トイレで排泄もできるようになった。
こんなに劇的に変化して治っていく猫を、今まで見たことがない。
奇跡のように短期間で障害が治った猫に、ミラクルな有名人の名から「テンコー」と名付けた。
保健所が定める「飼い主待ち」期間が終わり、譲渡できるほど元気になった頃。
ウイルス検査をしたテンコーは、FIV(+)・FeLV(+)のダブルキャリアと判明。
それを承知で家族に迎えてくれる人を募集開始。
間もなく、1人の女性が声をかけてくれた。
最初は、預かりボランティア希望。
後に、里親希望。
しばらく一緒に暮らすうちに、女性の気持ちが定まったらしい。
預かり期間がトライアルのようなものなので、里親希望がきてすぐ正式譲渡となった。
テンコーの奇跡は更に起きた。
譲渡後1年が過ぎた頃、里親さんがテンコーの健康診断を兼ねてウイルス検査をしたところ、白血病(FeLV)だけが陰性(-)に変わっていたという。
そんな奇跡は、僕が知る他のキャリア猫には起きていない。