2021年5月のこと。
開設から3ヶ月ほど経った保護施設を、1組の夫婦が訪れた。
近所の人が餌やりしている猫が、民宿の屋根裏に入り込んで子供を産んでしまった。
民宿を閉めて出稼ぎに行くので、屋根裏に猫をおいておけない。
できれば誰かに猫を引き取ってもらいたい。
相談内容は大体こんな感じ。
当時はまだ保護猫が少なく、我が家の保護部屋が開いていたので、母子猫4匹を連れて帰った。
母猫は人馴れしておらず、仔猫も隅っこに下がって固まってしまう。
保護部屋で預かり始めて1週間ほど経った頃。
脱走防止の金網を突破して、母猫脱走!
仔猫は3匹とも残っていたのは、咥えて行けなかったからだろうか?
幸い仔猫たちは離乳済だったので、そのまま我が家で育て続けた。
フルタイムの仕事で長時間留守にするので、カリカリは皿盛り食べ放題。
母親がいなくなったので寂しいのか、仔猫たちは甘えてくるようになった。
しばらくすると、仔猫たちに風邪症状が出始めた。
外には出していないから、母猫から感染して潜伏していた菌やウイルスから発症したのかもしれない。
結膜炎で目薬治療期間だけ、近所の猫ボラさんのお世話になった。
脱走後2~3日経つと、なんと母猫が庭に出現。
当時、庭にはハチロウという猫が餌を貰いに通って来ていた。
ハチロウは母猫と仲良くなり、母猫の人馴れに貢献してくれた。
仔猫が離乳しているから、早く避妊手術しないと次の子を妊娠してしまう。
庭に居着いたから母猫をTNRして地域猫にしよう。
そう考えて、捕獲前のケージ慣らしを開始。
手術前日の夕方、捕獲成功。
そのまま手術前の絶食へ。
母猫は意外と大人しかった。
手術は無事に終わり、ウイルス検査結果は陰性と告げられた。
7月7日の手術なので、付けた名前は「オリヒメ」。
人馴れした仔猫たちの里親募集を始めた頃。
相談者さんたちが仔猫たちの様子を見に来てくれた。
保護部屋はガレージに隣接する小部屋で、人々が仔猫を愛でているところへハチロウが入って来た。
今なら、譲渡目的保護の猫と外猫が顔を合わせるようなことはしないのだけど。
当時は色々抜けていたと思う。
ハチロウはスリゴロの大人しい猫で、オリヒメとは仲が良い。
だからまさか、あんなことになるとは誰も思わなかった。
来客にスリスリするハチロウが、仔猫の存在に気付いた直後、フッと雰囲気が変わった。
そろりそろりと仔猫の方へ歩いていくハチロウ。
次の瞬間、茶トラの仔猫に飛びかかった。
ギャッ! という仔猫の声がした。
ハチロウはその仔猫を咥えて、屋外へ逃走。
慌てた一同が後を追い、中でも足が速かった相談者の男性が、仔猫の奪還に成功。
しかし、残念ながら手遅れ。
仔猫は急所を噛まれての即死で、取り返したときには息絶えていた。
駆けつけてくれた獣医師のS先生は、オス猫は自分の子を作らせるため、メスが連れている仔猫を殺すことがあると教えてくれた。
ハチロウはオリヒメと仲が良いから、オリヒメの連れ子を殺して自分の子を産ませようとしたのかもしれない。
今でもトラウマとなっている、スリゴロ猫の仔猫殺し。
以来、仔猫に母猫以外は近寄らせないようにしている。
仔猫の保護場所も、他猫が入れない完全個室を使うようになった。