ある休日、
「あ、先輩。イセエビがいますよ」
「美味しそうね」
そして今はこの通り、イセエビが入っている水槽を二人で肩を寄せ合って覗き込んでいた。
「イセエビ食べたことあるんですか?」
「ないわよ」
「えぇ……」
「よく美味しいって言うではないの。高級食材だし」
食べたことないのに「美味しそう」はどうかと思ったが、そう言われると別におかしくはないような気がする。
それもそうか、と納得した涼音は、イセエビの説明文に目を落とす。
隣から鈍い音が響いたが、涼音にはなにも聞こえない。ただ、地味に涼香がのしかかってきて重たい。
「へえ……ガラスエビ」
「どこにいるの?」
なぜか額をさすっている涼香がさらに目を凝らす。
「いえ、そうじゃなくて。後期幼生のころは成体と同じ形しているんですけど、ほとんど透明らしくてガラスエビとよばれることもある、って書いているんですよ。あと先輩重たいです」
ごめんなさい、と一歩下がった涼香が首を捻る。
「後期幼生?」
「あたし達ぐらいの年のことですかね?」
「長生きするのね」
「いえ、そういう……そうですね」
後で調べてみたところ、イセエビの寿命は大体十年ほどだったのだが、涼音は訂正しなかった。