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夢の中にて

 ある日の夢の中。


「なんで先輩がいるんですか?」


 二年生の教室で、涼音すずねの席に涼香りょうかが座っていた。


 既に休み時間終了のチャイムが鳴っており、他の生徒は皆席に着いている。


 そして涼音が一番疑問に思っていることは、なぜ涼香が二年生の教室にいるのに、周りは騒がしくないのか、だ。


 二年生や一年生など、基本的に涼香と関わることの無い生徒達なら、涼香の姿が見えれば黄色い声が行き交うはず、にも関わらず教室は静かだ。


 いくら授業が始まるからといって、授業に集中するほど優等生がいる訳でもないし、仮にそうだとしても、チラチラと視線は集まるはず。


 そんな疑問が頭を駆け巡る。


「なにを言っているの? いつも一緒にいるではないの」

「訳の分からないこと言わないでくださいよ、授業始まりますよ」

「ええ、だからこうして座っているではないの」


 そう言うと、涼香は自身の太ももをポンポンと叩く。座れということだろうか?


「はあ!? 先輩なに言ってるんですか!?」

「なにも言ってないけど、いつもやっているわよ?」

「やってませんよ!!」


 そこまで言って涼音は慌てて周囲を窺う。教師は教卓に立っているが、こちらを咎める様子はないし、生徒達もこちらを見向きもしない。それどころか、顔がボヤけてよく認識できない。


「反抗期かしら……?」

「違いますよ!」


 おかしいでしょ! と頭を抱える涼音、授業が始まるとか最早どうでもよかった。


「頭が痛いの?」


 涼香がそんなことを言いながら立ち上がると、涼音の頭に手を伸ばす。


 その手を避けようとした涼音は、足が机に引っかかってしまい、バランスを大きく崩してしまう。


「涼音!」


 涼香は慌てて手を伸ばす。なんとか間に合い、転ばずに済んだのだが。


「ちょっと……先輩……近い……です……」


 社交ダンスのような体勢になっていて、とにかく涼香が近い、他の人がいるのにほんとにやめてほしい。


 しかし、涼音の心配とは裏腹に、別に周りは騒がしくなく、視線も感じない。ここまでくるとテンパる頭でも分かる、いや、テンパっているから気づけたのか。


(夢だ、これは)


 そう思うとなにも恥ずかしくない、試しに涼音は涼香を抱きしめ――。




「ふぇ?」


 布団を抱きしめてベッドから落ちかけていた涼音が目を覚ます。


 状況を理解しようにも、頭上からけたたましい音が鳴り響いて上手く頭が回らない。考える前に諸悪の根源の音を止める。静かになった室内で首を捻る。


(なにか夢を見ていたはず……多分先輩はいたんだけど……)


 落ちた布団をベッドの上に戻しながらなんとか思い出そうと頭を捻る。


「なんで夢って覚えてないのかなあ……」


 涼香が出てきたのはなんとなく覚えているが、なにをしていたのかはすっぽりと抜け落ちてしまい全く分からない。


「……まあいっか」


 時間が経てば涼香が出てきたことすら忘れてしまう、夢とはそういうもの、だから夢を忘れて空いた穴には現実での思い出を詰めればいいのだ。

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