ある平日の朝。
学校に行く準備をしていた
「ん?」
こんな時間に誰だろう? 涼香はまだ準備しているだろうし、涼音に涼香以外の通学を共にする人物はいない。
荷物の午前配送にしても早すぎる。そもそも通販でなにも頼んでないし、疑問だけが涼音の頭を行き来する。
涼音はとりあえず、インターホンのカメラを見ようとモニターのボタンを押す。
「嘘……」
『聞こえてるわよ』
なんと、今のインターホンは涼香が押したのだった。
なぜ? そんな思いを押さえつけ、とりあえず外に出ようと、涼音は鞄を持って家を出る。
「驚いたわね?」
得意げに微笑む涼香、急いで準備をしたわけではなさそうだ。髪は綺麗に梳かれていて、ネクタイは未だに結ぶのが苦手なのだろう、それを除けばちゃんと準備が出来ていた。
「なんで今日は早いんですか?」
涼香のネクタイを結びなおしながら涼音が疑問を口にする。
「早く目が覚めたからよ」
「先輩に限ってそんなことがあるんですね」
割と失礼なことを言っている気がするけどまあ気にしない。
実際涼香は早起きが苦手なのだ。学校があるからこそ頑張って起きているが、休日になると基本は昼に起きる程。いつも朝迎えに行くと、準備こそしているが、その表情にはまだ眠気が住んでいる状態だ。
そして、駅に近づくにつれ、表情から眠気が退去しだすのだが、今日はもう眠気が退去している表情だった。
「雨降りませんかね?」
「濡れてしまうわね」
そんな冗談を交わしながら駅までの道のりを歩く、すると、涼香の歩き方が少しぎこちないのに涼音はふと気づいた。
「あれ、先輩足痛いんですか?」
足を止めて涼香の足に目を向ける。黒のニーハイソックスが足を隠しており、よく分からない。
「朝からテーブルにぶつけてしまってね」
「え⁉ どこをですか⁉」
「スネと小指ね」
「二箇所……⁉」
「左足の小指をぶつけて跳ねていたら右足のスネをぶつけたわ」
なんかもう……朝から災難だった。
「見てもいいですか……?」
「優しくしなさいよ」
涼音は頷くと、恐る恐る右足靴下を下げる。すると、スネが僅かに青紫に変色していた、腫れてはいないにしても、歩くのがぎこちなくなるほど痛いのだろう。
「湿布貼るなり冷やすなりできたんじゃないですか?」
「涼音を驚かせたかったのよ」
なんてことないと答える涼香。
「なんですか、それ……二つの意味で驚きましたけど。小指は大丈夫なんですか? 爪とか」
「それは大丈夫だったわ、小指は軽くぶつけただけなのよ」
「でも跳ねていたって」
「そうしたくなるものでしょう?」
「そういうもんですかね?」
「そういうものよ」
もういいかしら? と靴下を上げる。靴下が足に当たったのか、みゅっとした顔になる。
「時間が経てば治ると思っていたのよ」
「家に戻ります?」
駅まで行くのと、家まで戻る距離はあまり変わらない、家に帰って応急処置をしてから学校に向かっても遅刻はしないだろう。
「いえ、学校に行きましょう」
一度家に帰る手間を考えるとそうするのが妥当だろう。遅刻はしないだろうが焦って駆け足になると足が痛むだろうし。
「それなら保健室に行きましょうね」
「そうしましょうか」
いつも養護教諭は顔をしかめながら、常連客である涼香の手当をしてくれるのだ。
家での怪我の処置を学校でするのはおかしな話だが、二人はそのことを知らない。
この後、二人はそれを知ることになるのだが、それはまた別の話。