ある雨の日の朝、
なぜなら傘をさしていても脚がべっちょべちょに濡れてしまう程の土砂降りの雨。
そしてなにより。
(先輩と並んで歩けない……)
そこまで広い歩道ではないので、傘をさしながら並んで歩くことはできないのだった。
涼音は僅かに顔を顰めながら
そんなこんなで雨が降る音、傘が雨を弾く音に、涼香に対する僅かに聞こえる黄色い声と羨望の眼差しを添えて黙々と学校へと向かう。
すると後ろから水飛沫をあげる音がして、車が来ていることに気がついた涼音は限界まで車道側から離れるが、涼香は車道側から離れずに歩いている。
声をかける間もなく車が二人の横を通過する。水溜まりの水を跳ね上げながら。
車道側から離れたことが幸いしてか、涼音は足元が濡れただけで済んだ、元々濡れていたのでほとんど気にならない。
それに対して、涼香は後ろから水飛沫をあげる音を聞いても離れようとはせず。
(傘で防いでみようかしら)
なんてことを考えていた。そして車が横を通過する時、傘を車道側に傾け、跳ね上がる水に備える。
車が通過した後涼音は、涼香は大丈夫かと目を向ける。傘が涼香の背中を隠しているため、涼香が濡れているのかは分からない。
「先輩、大丈夫でした?」
そう声をかけると、足を止めた涼香が振り向く。
「今日は土砂降りだったわね」
上半身がびしょ濡れで、水が滴り落ちる髪を手で触りながら涼香が微笑む。
傘を傾けた時、跳ね上がる水は割と防げたのだ、しかし今日は土砂降り、当然傘をさしていない状態の涼香は雨で濡れてしまう。
「拭いた方がいいと思いますよ」
「そうね」
そう言って歩道の端に寄った涼香は涼音に傘をさしだす、持っていろということだろうか? 涼音が傘を受け取ると礼を言って涼香はリュックを開ける。
涼音は距離を詰めて、涼香が濡れないように傘をさす。涼音自身も涼香の傘に入って、自分の傘で周囲の視線を遮る。
タオルを取り出した涼香は髪を拭きながら傘を受け取る。
「風邪をひいたら涼音に看病してもらうわよ」
「うつりたくないんで嫌ですよ」
そもそも先輩風邪ひかないでしょ、と涼香を急かして学校へと向かうのだった。