ある日の休日、
これといった目的地はなく、まだ夏が姿を見せていないうちにどこかに出かけたい、その気持ちだけで外に来ていた。
「どこに行きます?」
景色が止まってまた動く。
ドアの開く音、線路を走る音を背景に突き進むガランとした車内で、隣に座る涼香に涼音は言葉を投げかける。
「そうねえ……」
涼香は窓の外を眺めながら、どうしたものかと考える。
「あ。あたしは人が少ない場所がいいです」
人が少ない場所。
休日だし大半の場所は人が多いはず。よく行くショッピングモールなどの大型商業施設は除くべきだろう。しかしそれ以外となるとあまり外に出ない涼香には思いつかない。
そんなことを考えてると、不意に一つの天才的なひらめきが特急列車の如く涼香の頭にやって来た。
「わかったわ!」
「おお!」
涼音がバッと涼香の方へ身体を向ける、期待に満ちた眼差しが涼香に降り注ぐ。
「探しましょう」
「……探す?」
一体どういうことなんだ? そう言いたげに顰められた涼音の眉を優しくほぐしながら涼香は思いついたことを説明する。
「人が少ない場所を私達は知らないわ。それならそういう場所を探せばいいのではないのかしら。目的地が無いのなら、そういうのも悪くないと私は思うわよ」
「さすが先輩!」
「そうでしょう」
得意げに微笑む涼香。
涼音もこの提案には乗り気だった、例え見つからなかったとしても、それはそれでいい。涼香と一緒にいられるのだから。
「次の駅で降りましょうか」
間もなく次の駅に到着する、涼香は席を立つと扉の前に移動する。
ゆっくりと停車した電車は、緊張から解き放たれたかのような息を吐き、扉を開いた。
「先輩、行きますよ」
先に下りた涼音が涼香を呼ぶ。
初めて降りた駅、ここにはなにがあるのだろうか。いつもの日常を少し広げよう、色とりどりの思い出は見返したときにきっと楽しいから。そして髪を払った涼香は電車を降りるのだった。