ある休日。
時刻はお昼を少し過ぎた後、そのためか店内にはほとんど客の姿は無かった。そして二人はその時間になるまでなにも食べていなかった。
「お腹減ったわね」
メニューを見ながら涼香が呟く、豊富な種類のパスタが載っていて迷ってしまう。
「先輩はなに食べます?」
「そうねえ……」
和風パスタからカルボナーラ、ジェノベーゼなどの横文字オサレな名前のパスタ、あまり聞かないネーミングのパスタまで、空腹の涼香にはどれも魅力的に見えてしまう。
「決めたわ!」
「魚介のパスタですか?」
「その通りよ、さすが私検定準一級ね」
「いや、同じページ見てますからね」
あと先輩魚介系好きですもんね、と涼音はメニューを閉じると店員を呼んで注文していく。
「大盛りでお願いします」
自身の注文を言った最後に涼香が付け足す。
注文の確認を終え、店員が厨房へ戻る。
「先輩大盛りって……食べれるんですか?」
「結構前に来たことがあってね、その時少ないと思ったのよ。だから大盛りも大丈夫よ」
「え、誰と来たんですか?」
「家族よ」
「……ならよかったです」
口を尖らせる涼音に、笑みを浮かべた涼香は皿を持って立ち上がる。
「それよりパンを取りに行きましょう、食べ放題よ」
荷物を置いて二人はパンを取りに行く、このパスタチェーン店はパンが食べ放題なのだ。
パスタのことを考えながらパンを取る涼音に対して、大盛りといっても元が少ないからそこまで多くないでしょう、と考えながらパンを皿に盛っていく涼香。
「多くないですか?」
「大丈夫よ」
そしてパスタが来るまで二人は適当に話しながらパンを食べる。
「おかわりしてくるわ」
「パスタ食べれなくなりますよ」
「大丈夫よ」
パンを平らげた涼香が席を立つ、ほんとに大丈夫なのか、と思いながら見送る。
再びパンを盛って帰ってきた涼香が席に着いて僅か、出来上がったパスタが運ばれてくる。
先に涼音の頼んだパスタがやってきて、その後涼香の頼んだ大盛りパスタがやってきた。
「え……」
そのやってきたパスタを見た瞬間、涼香の顔が凍りつく。
自分の肩幅ぐらいはある横長の皿に盛られた大盛りパスタと、涼音の前にある円形の皿に盛られた並盛パスタ。
「記憶と違うわね……」
涼香の記憶では、並盛パスタは涼音の前にある量よりも少なかったはず。涼香のイメージしていた大盛りが目の前にある並盛のパスタぐらいの量だと思っていたのだ。
店員が去った後もしばらく呆然と大盛のパスタを眺める涼香。
完全な空腹ならまだ食べることはできただろう。しかし、涼香はパンを食べていた、それもたくさん。
涼香は深呼吸をして心を静めると髪を払う、そして、余裕たっぷりの雰囲気を醸し出してフォークを持つ。
「こういう時はね、急いで食べるのよ」
満腹感を感じる前に食べ切る戦法、これしかない。
「冷や汗凄いですよ」
涼音の言う通り冷や汗が止まらないが気にしている暇はない。
涼香は一心不乱にパスタを食べている。
ちゃんと味わえているのだろうか? もし無理だったら助けてあげよう、そう思いながら涼音もパスタを食べ始めるのだった。