ある日の帰り道。
「本屋に寄っていいかしら?」
唐突に
「全然いいですけど」
「ありがとう」
涼香からの礼を受け取り、少し歩いて涼音が口を開く。
「ところで先輩、なんの本を買うんですか?」
別に涼音は涼香の買う物をすべて把握したいわけではないのだが、こう思うのにはある理由があるのだ。
「この前話したあの漫画あるでしょう? あれの最新刊が今日発売なのよ」
「あーあれですか……」
涼音はそう返すとスマホで調べ出す、その漫画の発売日を。
ほんの少しの間、無言の時間が生まれる。
「ところで先輩」
涼音が歩くのを止める。
「その漫画、発売日は明日って言ったらどうします?」
立ち止まった涼香が振り返る、髪を払いながら。
「私はこう言ったのよ。明日、本屋に寄っていいかしら。と」
スマホを掲げる涼音の腕をやんわりと下ろす。チラッと画面を盗み見ることを忘れずに。
「えぇ……」
嘘だろコイツ、とでも言いたげな表情を浮かべた涼音は、軽く深呼吸。そして満面の笑み涼香に向けると、足早にその場を去っていった。
「ちょっと待ちなさいよー」
こうしていつも通りの緩慢な放課後が過ぎていく。