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帰り道にて 2

 ある日の帰り道。


「本屋に寄っていいかしら?」


 唐突に涼香りょうかがそう告げた。


「全然いいですけど」


 涼音すずねも特に断る理由は無いため頷く。


「ありがとう」


 涼香からの礼を受け取り、少し歩いて涼音が口を開く。


「ところで先輩、なんの本を買うんですか?」


 別に涼音は涼香の買う物をすべて把握したいわけではないのだが、こう思うのにはある理由があるのだ。


「この前話したあの漫画あるでしょう? あれの最新刊が今日発売なのよ」

「あーあれですか……」


 涼音はそう返すとスマホで調べ出す、その漫画の発売日を。


 ほんの少しの間、無言の時間が生まれる。


「ところで先輩」


 涼音が歩くのを止める。


「その漫画、発売日は明日って言ったらどうします?」 


 立ち止まった涼香が振り返る、髪を払いながら。


「私はこう言ったのよ。明日、本屋に寄っていいかしら。と」


 スマホを掲げる涼音の腕をやんわりと下ろす。チラッと画面を盗み見ることを忘れずに。


「えぇ……」


 嘘だろコイツ、とでも言いたげな表情を浮かべた涼音は、軽く深呼吸。そして満面の笑み涼香に向けると、足早にその場を去っていった。


「ちょっと待ちなさいよー」


 こうしていつも通りの緩慢な放課後が過ぎていく。

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