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グラウンドにて

 ある日の授業中。


 今日の体育は外での授業。競技はサッカー、涼香りょうかは日陰でその様子を見ていた。


「退屈ね」


 その場に転がっていた小さな石を投げる。


 準備体操までは参加していたのだ。それがどうしてこうなったのか、痛むふくらはぎを撫でながら涼香は遠い目をする。




 あれはサッカーの準備をしていた時、周りの静止を振り切ってサッカーボールを取りに行った涼香。止められるのは毎度のことだが、だからといって止まる涼香ではない。


「みんなはなにを心配しているのかしら。失礼だと思わない?」


 クラスメイトに不敵に微笑んだ涼香はボールを運ぶとゴールに向く。


 グラウンドを駆け抜ける風が涼香の髪をはためかせる。空気が変わった、研ぎ澄まされた静寂の中、固唾を呑むクラスメイト。ザリっと土を踏み締める音が響く。狙いはサッカーゴール、涼香は一歩下がり周りの己の心へ意識を集中させる。


 涼香の勝利を信じて、故郷で待つ涼音すずねの思いを、今までのライバル達の思いを背負って、このPK、外すわけにはいかない。


 一歩、踏み込んで脚を振り上げる。狙いは小細工なしの真正面、キーパーごと撃ち抜く! 熱い気持ちを滾らせ、その熱を込めた涼香の燃える右脚が今、ボールを打ち抜――。


「あっあっあっ」


 く瞬間、情けない声を出しながら涼香は。


「つっつつつつつる! 痛い!」


 振り上げた右脚をピンと伸ばしながらその場で崩れ落ちる。絶対的エースの故障、その場に動揺が広がる――訳もなく。


「言わんこっちゃない」「手空いてる人手伝ってー」「せんせーい、案の定水原みずはらがやらかしましたー」「これ込みで準備だしね」


「保健室連れてってあげてー」

「「「「はーい」」」」


 素早い連携、授業時間を無駄にしない迅速な対応。涼香の脚を伸ばして、痛みが治ると協力して涼香を運び込む。




 そんなこんなで保健室に運び込まれ、養護教諭に処置をされて今に至る。


 グラウンドでは、激しくぶつかり、獰猛にボールを奪い合うクラスメイト達、楽しそうでなにより。


 そよ風が頬を撫でる、なんとも言えない感情になる涼香だった。

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