「できまし――った!」
息を切らした
とにかく急いだ。
「あ……クッ……キー……?」
この調子なら急ぐ必要はなかったような気もするけれど……。
ズルズルとテーブルに這い上がってきた涼香の手が空を切る。
「涼音ちゃん……」
ここねが眉をハの字にして涼音を見る。頷いた涼音がクッキーを一枚取ると涼香の目の前でひらひらと振る。
「せーんぱい。あたしの作ったクッキーですよー」
「あ……ああ……」
テーブルに乗っかった涼香が餌を食べる魚のように、涼音の持つクッキーを食べようとする。傍らにクッキーの乗っている皿は見えていないようだった。
涼香の口元にクッキーを差し出して、咥える直前に離す。涼音はなかなかの意地悪だった。
「うぅ……ぐずん……」
「えぇ……」
やがてテーブルの上でぐったりと嗚咽を漏らす涼香に戸惑いながら、涼音は涼香にクッキーを食べさせる。
サクッと音を立て、バターの香りが広がる。
「……美味しい」
ツーっと涙を流しながら、クッキーを味わう涼香。
「生き返ったわ……。涼音、愛しているわよ」
「早く正気に戻ってください」
素っ気なく答えた涼音は、手で顔を扇ぎながら食器の片付けへと向かおうとして「あ、先輩方もどうぞ」と思い出したかのように付け足す。
「え、いいの?」
「はい、せめてものお礼です」
驚いた様子の菜々美とここねだったが、涼音の言葉に頷いた。
「ありがと」「涼音ちゃんありがとう」
――だがしかし。
「あげないわよ‼」
復活した涼香が涼音の作ったクッキーのお皿を抱えて威嚇していた。
「「「えぇ……」」」
こうしていつも通りの緩慢な放課後が過ぎていく。